前頭側頭型認知症の発生率と有病率:世界規模の最新知見
前頭側頭型認知症(FTD)は若年性認知症の主要因で、人口10万人あたり約9人が有病、約2人に発症とされます。今回の世界規模の解析で、その頻度と公衆衛生上の重要性が明確になりました。
背景
前頭側頭型認知症(FTD: Frontotemporal Dementia)は、脳の前頭葉や側頭葉が障害されることで起こる認知症の一群です。アルツハイマー病に比べると知名度は低いですが、性格の変化や社会的行動の異常、言語能力の低下が特徴的です。特に65歳未満で発症する「若年性認知症」の主要な原因であり、患者本人だけでなく家族にも大きな影響を与えます。
しかし、世界的な発生率や有病率を包括的に調べた研究はこれまでなく、地域や診断基準により報告がまちまちでした。今回の研究は、過去30年以上のデータを整理し、世界全体でFTDがどれほどの頻度で生じているかを明らかにすることを目的としています。
研究の目的
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FTD全体およびサブタイプ(行動変異型FTD、原発性進行性失語症など)の発生率・有病率を推定
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年齢や地域による違いを明確にし、世界的な疾病負担を把握
方法
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対象:1990~2024年に発表された集団ベースの研究
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検索:PubMed、EMBASE、Scopus
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分析:PRISMAガイドラインに従い研究を選定し、ランダム効果モデルで統合。発生率と有病率を推定
結果
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対象研究:1854本から32件を抽出
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全体の発生率:10万人年あたり2.28人(95%CI 1.55–3.36)
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全体の有病率:人口10万人あたり9.17人(95%CI 3.59–23.42)
サブタイプ別:
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行動変異型FTD(bvFTD):発生率 1.20/10万人年、有病率 9.74/10万人
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原発性進行性失語症(PPA):発生率 0.52/10万人年、有病率 3.67/10万人
65歳未満(若年発症)では:
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発生率 1.84/10万人年
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有病率 7.47/10万人
比較すると、FTDはレビー小体型認知症と同程度で、進行性核上性麻痺(PSP)や皮質基底核症候群(CBS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)より頻度が高いことがわかりました。
結論
この解析により、FTDは決して稀ではなく、特に若年性認知症の主要因として無視できないことが明らかになりました。今後は診断基準の統一や地域差の是正、過小評価されている集団の調査が必要です。
眼科院長コメント
眼科と認知症は一見無関係に見えますが、視覚認知障害や幻視はアルツハイマー型やレビー小体型認知症でしばしば認められます。FTDにおいても、言語障害がある患者さんでは眼科外来での問診に苦労することがあります。また、長年診ている患者さんが「性格が変わった」「話し方が変だ」と周囲に指摘される場合、背景にFTDが隠れている可能性もあります。
今回の研究は、FTDが稀な病気ではなく社会的にも注目すべき疾患であることを示しました。眼科医としても、患者さんの言語や行動の変化に気付き、必要に応じて神経内科や精神科に繋ぐ姿勢が求められると感じます。
出典
Urso D, Giannoni-Luza S, Brayne C, et al.
Incidence and Prevalence of Frontotemporal Dementia: A Systematic Review and Meta-analysis.
JAMA Neurology. Published online September 8, 2025.
doi:10.1001/jamaneurol.2025.3307
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