QOL損なう「光過敏症」
~日本人は光に無防備~
普通の人なら平気な光量をまぶしく不快に感じると同時に、目が痛んだり、まぶたが開けづらかったりする。しかし、原因が不明で病名の診断がつかない―。こんな病気を「眼球使用困難症候群」と呼ぶ。この病気に詳しい神経眼科医の若倉雅登さん(井上眼科病院名誉院長)は、その一形態である「光過敏症」について「生活の質(QOL)を著しく低下させるにもかかわらず、日本人は日常生活であふれている光に対し無防備過ぎる」と警鐘を鳴らしている。

わずかな光の漏れにも反応し、診察室でも布のフードを かぶったままの患者
◇暗い所から出られない
光過敏症が重症になると、わずかな光でもまぶしく、暗い所から一歩も出ることができない。昼間に行動できないため、暗くなってからゴーグルを着けて30分ほど外に出る。その後は、わずかな光も通さないために目張りをした真っ暗な部屋に戻る。
病院やクリニックに行くことが大変なため、眼科を受診できない患者も少なくないと思われる。さらに、眼球使用困難症候群についての知識が乏しい一般の眼科を受診し検査を受けても、眼球には異常は見つからず、「精神的な原因かもしれない。心療内科を受診してみたらどうか」と勧められることもあるという。
◇環境も原因
若倉さんは「光過敏症には環境も関係している」と指摘する。日本人は一日中、明るい場所に居ることが多い。欧米では事情が異なると言う。「イベント開催などを除けば、家の中やホテルなどの空間は日本に比べて暗い。日常生活の中の光を制限している」

患者を診察する神経眼科医の若倉雅登さん
人間は照明の反射光で物を見ている。そもそも発光体そのものを見るのがおかしいことだという。それがテレビの登場で変わり、バックライトをじかに見るようになった。爆発的に普及したスマホでは、10センチほどの距離から画面を見ている。「過剰な光に対し何の防御もしていない。センシティブな一部の人にとっては病的な状態を招く」
◇脳の拒絶反応
光過敏症に悩む人は年々増えており、最近では年間500人近い新規患者が受診するという。まぶしさだけではなく、倦怠感や片頭痛、腹痛、腰椎の痛みなどを訴える患者もいる。若倉さんは「脳が拒否反応を起こし、体の弱い部分に症状が出てくると考えられる」とし、「光によるダメージの蓄積に気付かない『隠れ光過敏症』の人もいるだろう」と話す。
◇遮光眼鏡が効果
光過敏症の治療は難しいが、方策はある。例えば、若倉さんの考え方に基づき企業が作製したのが、可視光線透過率1.5%の遮光眼鏡(HDグラス)だ。目と脳の状態を安静にし、回復力を引き出すことを目的に、光過敏症などの治療に用いる。1回30分、1日3回の装用が使用の目安となっている。屋外では原則として使用せず、装用中は画面を見たり、字を読んだりするなどの作業はしない。「お茶を飲んだり、音楽を聴いたりするリラックスタイムにしてほしい」と若倉さん。HDグラスを2カ月以上使用した患者の約70%に症状改善の効果が見られたという。
◇評価基準設け、社会支援を
現在、光過敏症など眼球使用困難症候群は障害者手帳の対象になっていない。視覚障害の認定は視力および視野が評価基準となっているからだ。しかし、眼球使用困難症候群の患者は目を開けての検査に困難がつきまとう。若倉さんが診た患者の中には、光を当て眼底検査を受けて帰宅した後、1カ月寝込んでしまった人もいるという。
厚生労働省は研究班をつくり、眼球使用困難症候群の調査、研究を進めようとしている。若倉さんは「患者が社会的に孤立してしまう恐れがある。できるだけ早く客観的な評価基準を設け、社会的支援を充実させることが必要だ」と強調する。(鈴木豊)
(2025/10/09 05:01)
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