白内障

[No.4204] ハンフリー視野検査は「慣れ」が大事な検査です

ハンフリー視野検査を受けたあと「初回の結果がすごく悪いと言われて不安になった」という声をよく聞きます。実は、これは異常ではなく「練習効果(ラーニング・エフェクト)」と呼ばれる、よく知られた現象です。


1.ハンフリー視野検査は「慣れ」が大事な検査です

ハンフリー視野検査は、暗い部屋で中心の印をじっと見つめながら、周りにチカッと光が出たときだけボタンを押す検査です。

  • どのくらいの明るさなら「見えた」と感じるか

  • 視野のどの場所で感度が落ちているか

を調べる、とても繊細な「心理テスト」に近い検査です。

初めて受けるときは、

  • 検査のリズムがつかめない

  • どの程度の光で押せばいいのか迷う

  • 緊張してまばたきや視線が安定しない

といった理由で、本来の実力より悪い結果が出がちです。

これが「練習効果」です。


2.練習効果では、何がどう良くなるのか?

多くの研究で、経験のない人が数回視野検査を繰り返すと、結果が良く安定してくることが示されています。

  • 緑内障疑い患者に連続して視野検査を行うと、

    2回目・3回目で平均感度(MD)が改善し、視野欠損が軽く出ることが報告されています。PubMed

  • 自動視野計の練習効果についてまとめた報告では、

    初回の視野は真の病気の程度より“悪く”出やすい」とされています。PubMed

  • 新しいタイプのハンフリーMatrix視野でも、

    初回のMDが一番悪く、その後2~3回で約2~3 dB良くなるという結果が示されています。PubMed

  • 緑内障患者や健常人を対象とした最近の研究でも、

    視野検査を繰り返すことで、誤反応(偽陽性・偽陰性)や見落としが減り、信頼性が上がることが報告されています。PMC+1

つまり、「1回目の結果が悪い=そこまで病気が進んでいる」とは限らないのです。


3.なぜ練習効果が起こるのか?

主な理由は次の3つです。

  1. 操作に慣れていない

    ボタンを押すタイミングに戸惑い、「見えたかも?」と思っても押せないことがあります。

  2. 検査のペースがわからない

    光が出る間隔は不規則です。

    「さっき出たから、次もそろそろだろう」などと予測してしまうと、

    見えていないのに押してしまう(偽陽性)、

    逆に構え過ぎて押し遅れる(偽陰性)ことが起こります。

  3. 緊張・疲労

    初回はどうしても緊張しますし、

    体勢がぎこちないと早く疲れてしまい、後半の反応が悪くなりがちです。

数回経験するうちに、

  • 「このくらいの光なら押せばいい」

  • 「見えないときは押さなくていい」

  • 「まばたきしてもかまわない」

といった感覚がつかめ、検査の“コツ”を体が覚えていきます。


4.医師はどう結果を評価しているのか?

視野検査には、「信頼性指標」と呼ばれるチェック項目があります。

  • 固視ずれ(まっすぐ見ていられたか)

  • 偽陽性(見えないはずのところで押してしまった回数)

  • 偽陰性(見えるはずの明るさを押しそこねた回数)

などを見て、「この視野結果をどこまで信用できるか」を判断します。Aao Journal+1

そのため実際の診療では、

  • **初回の視野検査は「練習」「たたき台」**ととらえる

  • 2回目、3回目の結果と合わせて、

    時系列で変化を見ながら診断・治療方針を決める

という考え方をしています。

診察室で医師が「もう1回、視野を取りましょう」と言うのは、

決して疑っているのではなく、より正確なデータを集めるためなのです。


5.患者さんにお願いしたいポイント

少しでも良い検査結果を得るために、次の点を意識してみてください。

  • 中心の印をじっと見る(周りの光を追わない)

  • 見えたと感じたら、ためらわずにボタンを押す

  • 見えなかったら無理に押さない(「外れてもいい」と思ってOK)

  • まばたきは我慢しない(目が乾くと、かえって見づらくなります)

  • 検査中に不安や体勢のつらさがあれば、遠慮なくスタッフに伝える

これらを守ることで、短時間で質の良い視野検査ができるようになります。


6.まとめ:初回の結果に落ち込みすぎないでください

  • ハンフリー視野検査には、**誰にでも起こる「練習効果」**があります。

  • 多くの研究で、最初の1~2回は視野が実際より悪く出ることが示されています。PubMed+2PubMed+2

  • 医師は、信頼性指標や複数回の結果を総合して、緑内障などの診断・経過観察を行っています。

ですから、**「最初の視野が悪かった=急に悪化した」**と考えて

過度に心配する必要はありません。

当院では、検査に慣れていただきながら、

長い目で視野の変化を追い、治療方針を一緒に考えていきます。

わからないことや不安な点があれば、どうぞ遠慮なくお尋ねください。

メルマガ登録
 

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

最近の記事

  1. 日本人における「眼圧と遺伝子」の関係が明らかに ―東北メディカル・メガバンクによる大規模研究より―

  2. 眼科とアレルギー診療のこれから ―「Total Allergist(総合アレルギー専門医)」に眼科医は必要か?―

  3. ハンフリー視野検査は「慣れ」が大事な検査です