社会・経済

[No.4302] 人生の節目に、投資をいったん考え直すということ

人生の節目に、投資をいったん考え直すということ

年の瀬が近づくと、多くの人が一年を振り返り、来年をどう迎えるかを考えます。家計のこと、仕事のこと、健康のこと。そして、あまり声高には語られませんが、「お金との付き合い方」も、そんな振り返りの対象の一つではないでしょうか。

株式投資の世界には、今から半世紀以上前に書かれた投資の本が数多くあります。1970年前後に出版された『岡部寛之の株指南 株式投機の理論と実際』も、その一つです。今の感覚からすると古めかしく感じる部分もありますが、思い返してみると、意外なほど今にも通じる考え方が書かれています。

その中で印象的なのは、「人生の節目では、これまでの投資はいったん整理し、新しい生活が落ち着いてから改めて方針を考えるのがよい」という趣旨の一節です。相場の先読みやテクニックではなく、人生の流れと投資を結びつけて考える視点です。

この考え方は、中国の古い言葉「過ちて改むるに憚ることなかれ」を思い起こさせます。人は誰でも判断を誤ることがありますが、大切なのは、状況が変わったときに、それを素直に見直すこと。過去の選択に固執しない姿勢が、結果として自分を守ることにつながるのかもしれません。

株の世界には、「株買い人に勧めるなかれ」という言い回しもあります。投資はあくまで自己責任であり、他人が軽々しく「これが良い」と勧めるものではない、という意味です。善意であっても、うまくいかなかったときには、人間関係に微妙な影を落とすことがあります。だからこそ、最終的な判断は自分で引き受けるべきだ、という昔からの知恵なのでしょう。

こうした背景の中で、最近よく耳にするようになったのが「IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)」という存在です。IFAは、特定の証券会社の社員ではなく、比較的中立な立場で資産運用について相談に乗る専門家です。実際の口座管理や売買は証券会社が行い、IFAは考え方の整理や助言を担います。

IFAの良い点は、短期的な売買を急がせることが少なく、長い目で相談できることです。同じ担当者と継続して話ができるため、老後資金や将来の暮らし方など、時間をかけて考えたいテーマにも向いています。

もちろん、誰に相談してもよいわけではありません。話をよく聞いてくれるか、分かりにくい言葉を使わないか、費用のことをきちんと説明してくれるか。そうした点を大切にしながら、慎重に相手を選ぶ必要があります。

投資とは、何かを当てる競争というよりも、変化する人生の中で「今の自分に合った形」を探し続ける作業なのかもしれません。ときには立ち止まり、整理し、考え直す。そのこと自体を、決して後ろ向きに捉える必要はないのでしょう。

診療でもお金のことでも、大切なのは「無理をしないこと」だと思います。分からないまま進まず、納得できる説明を受けながら、ゆっくり考える。その姿勢が、長い目で見て安心につながるのではないでしょうか。

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