社会・経済

[No.2601] 大黒天の極意:「時至れりと決断すれば、いつなりとも頭巾をかなぐり捨ててよい」

清澤のコメント:このところ、2023年NHK大河ドラマ「どうする家康」の原作である火坂雅志の小説「天下 家康伝」を読んでいました。この中に目に関連する記述がありました。大事を前にしてうろたえぬ心構えが説かれています。採録します。それは、下巻p405で第二十章「天下の天下」の中にありました。

信長は武田家を滅ぼして、天下統一を目前にした時に光秀に誅殺されます。秀吉も、国内統一を終えて朝鮮出兵に至って病没し、残された派遣軍を苦しめ、家の滅亡に至りました。この家康も、豊臣家を滅ぼして天下を簒奪して間もなく病没しています。3人3様に大事な時に死んではいますが、徳川泰平の世を築いた家康の死に支度が最も優れたものであったようです。

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苦労人であった家康は数々の名言を残している。

そのひとつに、

―大黒の極意

というものがある。あまり知られていないが、『徳川実紀』にしるされている話である。

あるとき、秀吉お気に入りのお伽衆、曽呂利新左衛門が家康をたずねてきた。新左衛門は家康に、七福神の大黒天の功徳について語った。

「人は食い物がなければ生きていけませぬゆえ、大黒さまは米俵の上に足を乗せております。また食い物があっても財がなくては困るので、袋を担いでその口を握り、無用の浪費をせぬようにしています。しかし、いざ財を使うとなれば、片手に持った小槌で、惜しげもなく金銀を打ち出す構えをしております。大黒さまが夏冬ともなく頭巾を深くかぶっているのは、おのが身をわきまえ、かりそめにも上を見るなという教え。この心構えがあれば、生涯福禄を保つというので、世の人は大黒さまを福の神と申すのでございます」

これを聞いた家康は、次のように言った。

「そなたの申すことはもっともである。だが、大黒の極意ということを知るまい。なるほど大黒は頭巾をかぶってはいるが、これは時至れりと決断すれば、いつなりともかなぐり捨ててよいのだ。そうして、上下四方に目を配り、障りとなるものがないよう睨みをきかせるのが、まことの大黒の極意というものよ」

曽呂利新左衛門が語ったのは、平時の人間の気構えであろう。それに対し家康は、ここ一番の勝負に打って出るときの決死の覚悟を、頭巾を脱ぎ捨てる大黒天になぞらえた。

普段は用心深くあるべきだが、人には命懸けの大博打をせねばならない瞬間が必ずやってくる。そのときになってうろたえぬよう、肚をすえておくことこそ肝要と説いているのである。

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