「まつ毛ダニ」ってなに? 〜多くの日本人が持つ常在微生物と、そのトラブル〜
清澤のコメント:立て続けにマスコミの方からまつ毛ダニ(デモデクス)に関する2件の電話での相談を受けました。私は目の寄生虫の専門家ではありませんのでざっとお答えして、回答はお断りしましたが、私の過去のブログ記事を見てくださったようです。そこでもう一度まつ毛ダニ症についてまとめなおしてみました。眼瞼炎の圧方に眼瞼清潔操作をお勧めするという基本的な対応でよさそうです。
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はじめに
毎日の診療で「目の周りのフケのようなもの」「目やにが増えた」「かゆみやゴロゴロ感がある」といった症状を訴える方が時々いらっしゃいます。その原因として「まつ毛ダニ(正式には Demodex)」が関わっていることがあります。この記事では、まつ毛ダニがどのような状態でトラブルを起こすか、どのような人に多いか、日常でできる対処法などを分かりやすくお伝えします。
まつ毛ダニって何?
まつ毛ダニとは、ごく小さなダニの一種で、人を含む哺乳類の皮膚や毛包(毛根の袋)に寄生する微小な仲間です。人の体には普通に存在しており、健康な状態では皮脂や古い角質を分解し、皮膚環境のバランスの一部を担っているとも言われています。
しかし、まつ毛やまぶたの周囲で過剰に増えると、炎症を引き起こし「デモデックス・ブレファリティス(Demodex blepharitis)」という眼瞼炎(まぶた周辺の炎症)の原因になります。これはまつ毛の根元から剥がれ落ちるような細かい落屑(フケのようなもの)や目やに、かゆみ、赤み、異物感などとして自覚されることがあります。PMC+1
どんな人に多い?
まつ毛ダニそのものは普通の皮膚にも存在しますが、その数が増えると症状を起こしやすくなります。報告によれば次のような傾向があります。
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年齢が高い方ほど多い:加齢とともに増える傾向あり。PMC
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乾燥や眼瞼炎など、目の周囲の慢性炎症がある方。PMC
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眼周囲の衛生状態が不十分な場合(メイク残り、皮脂の蓄積など)。
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免疫低下状態や皮膚疾患を持つ方。PMC
特に高齢者では、ほとんど全員にデモデックスが存在しているという報告もあります。PMC
どんな症状が出る?
まつ毛ダニが増えると、次のような症状として現れます。
主要な症状
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まつ毛の根元に白いフケのような落屑(シリンドリカルデンドラフトと呼ばれます)。PMC
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目の周りの痒み・熱感・ゴロゴロ感。Nature
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赤みや充血、涙目。PMC
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目やにが増える、朝起きたときにまぶたがくっつく。
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ドライアイ症状の増悪:まつ毛ダニの存在が涙膜の不安定さにも関与します。Nature
重症ではまつ毛が抜けやすくなったり、マイボーム腺(油分を分泌する部分)の機能が低下してドライアイが悪化することもあります。MDPI
どうやって診断するの?
眼科では、スリットランプ(細隙灯顕微鏡)を用いてまつ毛の根元に付着する円筒状の落屑(シリンドリカルデンドラフト)を観察することで診断のヒントになります。Nature
必要に応じて、まつ毛を数本抜いて顕微鏡的にダニを確認することもありますが、臨床では落屑と症状から診断することが一般的です。
自宅でできる対処法(まずは基本のケア)
日常生活で最初に行うべき対策の基本は、眼周囲の清潔保持(リッドハイジーン)です。
温罨法(温かいタオルで温める)
まぶたを5〜10分程度、ぬるめ(40度前後)の温かいタオルで温めると、皮脂や油分が柔らかくなり、まつ毛ダニを含む汚れの除去が容易になります。
清拭・アイシャンプー
温罨法の後、まぶたの縁(まつ毛の根元)を優しく清拭します。市販のアイシャンプーや低刺激の洗浄液を用い、まぶたの縁を指や綿棒で軽くなでるように洗うのが効果的です。これにより皮脂、皮膚落屑、バクテリアの負荷が減り、ダニの増殖環境が改善します。J-STAGE
洗浄時は力を入れすぎないよう注意してください。また、清潔なタオルやコットンを使用し、専用の目元ケア製品を正しく使用することが重要です。
医療機関での治療
日常のケアに加えて、必要に応じて次のような治療の選択肢があります。
1. まつ毛ダニに対する薬剤
海外では、デモデックスを標的とした点眼薬(例:ロティラナー眼科用液 Lotilaner: Xdemvy)がFDAで承認され、まつ毛ダニを根本から減らす治療として用いられています。Dove Medical Press+1
これは眼瞼縁に棲むデモデックスを直接減らすことができ、従来の抗菌・抗炎症療法より原因に近い治療と評価されています。
※ 日本国内ではまだ広く使用できない場合がありますので、導入時期や保険適用などは専門医とご相談ください。
2. 補助的な治療
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炎症が強い場合は抗炎症薬(ステロイド点眼薬など)を併用する場合があります。
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乾燥が主体の場合は人工涙液などの涙液補充。Mayo Clinic
3. まぶた縁の専門的な施術
医療施設では、IPL(強い光治療)やブレファロエクスフォリエーション(まぶた縁の機械的清掃)など、追加的な施術が可能な場合があります。
予防と日常ケアのポイント
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毎日朝・夜のまぶたの洗浄を習慣化する。
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メイクは必ず落とし、古い化粧品は期限を守る。GM-Web
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目の周りを清潔に保つ生活習慣(睡眠・洗顔)を心がける。
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ドライアイやアレルギー性結膜炎など、他の眼疾患の治療も同時に行う。
最近のメディアでの話題
最近の英語圏メディアでは、まつ毛ダニ(Demodex)が非常に一般的であり、慢性的な眼瞼炎や目の不快感の原因として見落とされていることが多いという指摘が報じられています。また、多くの眼科外来患者でDemodex blepharitisが認められるという医療現場での話題も出ています。オプサルモロジータイムズ (この記事の末尾参照)
また一般ニュースでは、デモデックスや顔ダニの「異常増殖」と自己診断的な話題がSNSや海外メディアで取り上げられることがありますが、実際の診断や治療は必ず眼科医による評価が必要です。The Sun
おわりに
まつ毛ダニそのものは日本人の多くに存在している常在微生物ですが、そのバランスが崩れると炎症や不快感の原因になります。日常でできる丁寧なケアと、必要に応じた専門的な治療により、症状は改善が期待できます。気になる症状がある場合は、ぜひ一度眼科専門医にご相談ください。
◎最新記事 Ophthalmology Times:2025年11月/12月 第50巻 第6号
脱毛症眼瞼炎のスクリーニング:日常眼科ケアにベストプラクティスを取り入れる(リンク)
主なポイント
- 脱菌眼瞼炎は患者の約58%に影響を及ぼし、正確な診断と管理のために徹底的な眼表面検査が必要です。
- ロティラナー眼科用溶液はデモデックスを効果的に治療し、サターン1およびサターン2の研究で示されたように、カラーレットを大幅に減少させます。(注;日本ではロチラナーは入手できません)
- 臨床医はまぶたの衛生よりもロチラナーを優先すべきです。後者はデモデックスの発生の根本原因には対処できないからです。
- 特に術前には、デモデックスによるまぶたの炎症や細菌量の増加を防ぐために治療閾値を下げることが不可欠です。



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