不眠症治療は「薬を出す」から「出口を考える」時代へ
― デエビゴ錠の臨床データと睡眠マネジメントの実際 ―
エーザイ製薬のPR記事を見ました。その要旨と感想、それと以前の関連記事です・
「布団に入っても30分以上眠れない」「夜中に何度も目が覚めてしまう」。こうした不眠の訴えは、外来診療で非常によく耳にします。不眠が続くと、日中の眠気や集中力低下だけでなく、気分の落ち込み、血圧や血糖の悪化など、全身の健康にも影響を及ぼします。
不眠症治療において近年注目されているのが、オレキシン受容体拮抗薬という新しいタイプの睡眠薬です。その代表が、発売から5周年を迎えた国産薬「デエビゴ錠」です。
デエビゴは「眠らせる薬」ではない
従来の睡眠薬の多くは、脳の働きを全体的に抑えて眠気を起こす仕組みでした。そのため、翌朝のふらつきや記憶のあいまいさが問題になることもありました。
一方デエビゴは、「覚醒を保つオレキシン」という物質の働きを一時的に弱めることで、自然に眠りに入りやすい状態を作る薬です。
臨床試験で何が分かったのか
2つの臨床試験から、次の点が明らかになっています。
まず、入眠効果です。寝床に入ってから眠るまでの時間が短くなり、「布団の中で考え事をしている時間が減った」と感じる患者さんが増えました。
次に、睡眠維持効果です。夜中に目が覚める回数が減り、「朝まで比較的まとまって眠れた」という実感が得られやすくなっています。
さらに重要なのが安全性です。高齢者を含めた試験でも、転倒や強いふらつき、記憶障害といった副作用は比較的少なく、長期使用でも忍容性が高いことが示されています。
「睡眠マネジメント」という考え方
秋田大学の三島先生は、不眠症を単独の病気としてではなく、生活習慣や他の疾患と深く結びついた状態として捉える重要性を強調しています。
不眠は、うつや不安、高血圧、糖尿病などと相互に影響し合うことが分かっており、「眠れないから薬を出す」だけでは十分ではありません。
就寝・起床時刻を整える、夜間の強い光を避ける、日中に適度に体を動かす――こうした生活調整と薬物治療を組み合わせることが、睡眠マネジメントの基本です。
「出口を見据えた治療」が大切
もう一つの重要な視点が、「出口を見据えた不眠症治療」です。不眠症治療のゴールは、薬を一生飲み続けることではありません。
症状が安定してきた段階で、量を減らす、休薬を試みるといった段階的な治療計画を立てることが理想です。
デエビゴは依存性が比較的少なく、このような出口を考えた治療設計がしやすい薬とされています。
眼科診療の立場から
睡眠の質は、ドライアイ、眼精疲労、眼瞼けいれんなど、眼科疾患とも無関係ではありません。「目の不調」をきっかけに睡眠を見直すことで、全身状態が改善するケースも少なくありません。
不眠症治療は「とにかく眠る」ことではなく、「健康的に眠れる状態を取り戻す」ことが目的です。デエビゴは、その考え方を実践するための一つの有力な選択肢といえるでしょう。
清澤のコメント:もともとはオレキシン不足がナルコレプシーの原因であるという基礎研究から明らかになったオレキシンという仕組みが、今では不眠症治療の中心的な考え方として臨床現場に入ってきていることに、眼科医として医学の進歩を実感しました。



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