放射線視神経症(Radiation Optic Neuropathy:RON)をどう理解し、どう対応するか
放射線治療後に視力低下を来す疾患として、**放射線視神経症(radiation optic neuropathy:RON)**は決して頻度の高い合併症ではありませんが、一度発症すると治療が難しく、眼科医として知っておくべき重要な病態です。特に下垂体腫瘍、頭蓋底腫瘍、鼻副鼻腔腫瘍などに対する放射線治療後の患者を診察する際には、常に念頭に置く必要があります。
1.どの程度の放射線量で、どのくらいの期間で発症するか
RONは、視神経または視交叉が放射線照射野に含まれた場合に起こります。一般にリスクが高まるのは、
-
単回照射換算で50~55 Gy以上
-
分割照射であっても視神経・視交叉の耐容線量を超える場合
とされています。
発症時期は比較的特徴的で、
**照射後3か月~3年以内(多くは6~18か月)**に、突然あるいは亜急性に視力低下が出現します。数日~数週間で急速に悪化することもあり、患者は「ある日突然見えなくなった」と訴えることが少なくありません。
2.病態の本体は何か ― 炎症ではなく血管障害
RONの本体は、**放射線による視神経の微小血管障害(radiation-induced vasculopathy)**です。
放射線により、
-
毛細血管内皮障害
-
血管閉塞、虚血
-
二次的な軸索障害・脱髄
が生じ、結果として虚血性視神経障害に近い病態が形成されます。
重要な点は、主病態は炎症ではないということです。このため、後述するようにステロイド治療の効果は限定的になります。
3.臨床像の特徴
典型例では、
-
片眼または両眼の急激な視力低下
-
中心暗点、びまん性視野障害
-
視野は前部虚血性視神経症(NAION)に似るが、若年~中年でも起こる
初期には眼底所見が乏しいこともありますが、進行すると、
-
視神経乳頭浮腫(急性期)
-
その後、視神経萎縮
へと移行します。
4.画像診断での特徴 ― MRIは重要な補助診断
診断に最も有用なのは**MRI(特に造影MRI)**です。
-
T2強調像:視神経の高信号
-
ガドリニウム造影:
→ 視神経や視交叉が造影増強(エンハンス)されることが多い
この造影効果は、炎症そのものというよりも、血管透過性亢進・血液神経関門破綻を反映すると考えられています。
ただし注意点として、
-
視神経炎
-
腫瘍浸潤
-
再発腫瘍
との鑑別が重要であり、照射歴と発症時期の一致が診断の決め手になります。
5.治療と対応 ―「治りにくい」ことを前提に
残念ながら、RONは確立した有効治療がありません。
-
ステロイド大量療法
→ 一時的な改善報告はあるが、エビデンスは乏しい -
抗凝固療法・抗血小板療法
→ 明確な有効性は証明されていない -
高圧酸素療法
→ 早期介入で部分改善例の報告あり(症例ベース)
現実的な対応として重要なのは、
-
早期認識・早期紹介
-
神経放射線科・脳外科との情報共有
-
視機能予後についての十分な説明
です。発症後の視力回復は困難であることが多く、予防と早期発見が最も重要な疾患といえます。
6.眼科医としての実践的メッセージ
放射線治療歴のある患者で、
-
急激な視力低下
-
眼底所見が乏しい視神経障害
を見たときには、必ずRONを鑑別に挙げるべきです。
「放射線後は何年も経っているから関係ない」と考えるのは危険です。
RONは、眼科医が放射線治療の影の部分を引き受ける疾患とも言えます。治せない疾患であっても、正確に診断し、適切に説明し、次につなぐことが、われわれの重要な役割です。



コメント