網膜血管閉塞は認知症のサインになるのか
— 英国バイオバンク50万人データから見えた「関係」と「限界」
背景
網膜血管閉塞は、突然の視力低下を引き起こすことがある比較的よく知られた眼の病気です。網膜静脈閉塞(RVO)や網膜動脈閉塞(RAO)は、高血圧や糖尿病、動脈硬化など全身の血管病変と深く関係していることが分かっています。一方、認知症もまた血管の健康と強く結びつく病気であり、特にアルツハイマー病や血管性認知症では、脳の血流障害が重要な役割を果たします。
近年、「網膜は脳の血管の状態を映す鏡」と考えられるようになり、眼の血管の異常が将来の認知症の手がかりになるのではないか、という関心が高まっています。しかし、これまでの研究結果は一貫せず、関係があるとする報告と、ないとする報告が混在していました。
目的
本研究の目的は、網膜血管閉塞を経験した人が、将来認知症(全因認知症、アルツハイマー病、血管性認知症)を発症しやすいのかどうかを、大規模データを用いて検証することです。
方法
研究には、英国バイオバンクに登録された約50万人(40〜69歳)が参加しました。この中で、網膜血管閉塞を持つ人は約1400人でした。研究者は、年齢や性別、学歴などをそろえた対照群と比較し、さらに糖尿病や高血圧、喫煙といった血管リスク因子の影響も考慮して、認知症発症との関連を詳しく解析しました。
結果
単純に比較すると、網膜血管閉塞や網膜静脈閉塞を持つ人では、全体として認知症やアルツハイマー病の有病率が高い傾向が見られました。また、血管性認知症は特に網膜静脈閉塞のある人で多く認められました。
しかし、高血圧や糖尿病などの共通する危険因子を統計的に調整すると、網膜静脈閉塞そのものが認知症のリスクを独立して高めている、という明確な証拠は得られませんでした。
結論
この研究から、**網膜血管閉塞と認知症は「無関係ではないが、直接の因果関係とは言い切れない」**ことが示されました。両者を結びつけているのは、加齢や高血圧、糖尿病といった共通の血管リスク因子である可能性が高いと考えられます。
つまり、網膜血管閉塞は認知症の“原因”というより、全身の血管の健康状態を反映する“サイン”の一つと捉えるのが現時点では妥当です。
出典
Gao A, Tuz-Zahra F, Vig V, et al.
Association of Retinal Vascular Occlusion With Dementia: A UK Biobank Retrospective Longitudinal Study.
Ophthalmology Retina. 2026;10(2):128–134.
眼科医・清澤のコメント
網膜血管閉塞を経験された患者さんには、「目の病気」だけでなく、血圧・血糖・脂質管理の重要性を繰り返しお伝えしています。本研究は、その姿勢が認知症予防という観点からも理にかなっていることを裏付ける内容だと感じました。眼の異常は、全身の健康を見直す良いきっかけになります。



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