緑内障

[No.4549] 正常眼圧緑内障の新しい原因遺伝子 ―METTL23とヒストンメチル化の研究―木村至先生を偲んで

木村至先生を偲んで

本日、東海大学八王子病院で診療と研究に尽くされてきた木村至先生が逝去されたとの知らせに接し、深い悲しみを覚えました。私自身、南砂町の私の医院に木村先生をお招きし、緑内障診療について多くのご教示をいただいたことを思い出します。また、先生のご講演を講演会でお聴きしたことも懐かしく思い出しました。温厚でありながら研究にも真摯に向き合う先生のお姿は、今でも強く印象に残っています。突然の訃報に接し言葉もありませんが、先生のご功績を偲びつつ、ここでは先生のお名前も連なる正常張力緑内障の研究論文を紹介したいと思います。


正常眼圧緑内障の新しい原因遺伝子

―METTL23とヒストンメチル化の研究―

緑内障は視神経が徐々に障害され、視野が欠けていく病気で、日本でも失明原因の上位を占めています。多くの方は「眼圧が高い病気」と思われていますが、実際には眼圧が正常範囲であっても進行するタイプがあります。これを正常眼圧緑内障(Normal Tension Glaucoma:NTG)と呼び、日本人では特に多いことが知られています。しかし、眼圧が高くないのに視神経が傷む理由は、長い間はっきりとは分かっていませんでした。

今回紹介する研究では、この原因の一部としてMETTL23という遺伝子の異常が関係している可能性が示されました。

研究の背景

日本人の緑内障の多くは正常眼夏緑内障であり、その原因には遺伝的要因が関係していると考えられてきました。これまでにもOPTNやTBK1といった遺伝子の異常が報告されていますが、それらは全体の数%しか説明できません。そこで研究者たちは、別の遺伝子が関わっている可能性を調べました。

また近年、遺伝子の働き方を調節する「エピジェネティクス」という仕組みが多くの病気に関係することが分かってきました。特に、DNAを巻き付けているタンパク質(ヒストン)に化学的修飾が起こると、遺伝子の働きが変わることが知られています。この研究は、そうしたエピジェネティックな変化が緑内障にも関係しているのではないかという仮説から始まりました。

研究の目的

日本人の正常眼圧緑内障の家系を詳しく調べ、新しい原因遺伝子を特定し、その働きを明らかにすることが研究の目的でした。

研究の方法

研究チームは、正常張力緑内障が複数の世代にわたって発症している日本の家系を対象に、全エクソーム解析(WES)という遺伝子解析を行いました。その結果、METTL23遺伝子の変異が見つかりました。さらに、患者由来細胞や人工多能性幹細胞(iPSC)、そしてMETTL23変異を持つマウスなどを用いて、この遺伝子の働きを詳しく調べました。

研究の結果

研究の結果、次のようなことが分かりました。まず、METTL23遺伝子に変異があると、正常なタンパク質が作られなくなります。この遺伝子は網膜神経節細胞(視神経の細胞)で働く酵素であり、ヒストンの特定の部分(H3R17)をメチル化する役割を持っていました。このメチル化は炎症反応に関わる遺伝子の調節に関係しています。METTL23の機能が低下すると、網膜神経節細胞が傷つきやすくなり、眼圧が高くなくても緑内障のような変化が起こることが確認されました。実際に、この遺伝子に変異を持つマウスでは、眼圧が正常でも視神経障害が生じる緑内障様の所見が見られました。

結論

この研究は、METTL23遺伝子の異常が正常張力緑内障の原因になり得ること、そしてその背景にヒストンメチル化というエピジェネティックな調節機構が関与している可能性を示しました。

この研究の意義

緑内障はこれまで主に眼圧の病気として理解されてきましたが、この研究は遺伝子発現の調節異常が視神経変性に関わる可能性を示しています。将来的には、遺伝子診断による早期発見や、新しい分子標的治療の開発につながる可能性もあります。


出典

Yang P, Suga A, Kimura I, et al. METTL23 mutation alters histone H3R17 methylation in normal-tension glaucoma.

眼科医 清澤のコメント

日本人に多い正常張力緑内障は、長く原因が不明でした。本研究は、視神経細胞の遺伝子発現を調節するエピジェネティック機構が関係している可能性を示した重要な研究です。木村至先生が関わられたこの研究成果を、改めて敬意とともに紹介し、先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

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