緑内障

[No.4582] 緑内障は「目だけの病気ではない」― 全身の健康と深く関係する最新研究;島根大学眼科の谷戸正樹先生講演解説

緑内障は「目だけの病気ではない」― 全身の健康と深く関係する最新研究

緑内障という病気は、一般には「眼圧が高くなり、視野が欠けていく目の病気」と説明されることが多いものです。しかし最近の研究では、緑内障は単に目の中だけで起こる病気ではなく、加齢や生活習慣、全身の健康状態と深く関係する“全身性の病気”として理解されるようになってきています。

2025年の日本眼科学会総会では、島根大学眼科の谷戸正樹先生が「全身因子と緑内障」というテーマで講演を行い、緑内障を取り巻く新しい医学的視点が紹介されました。

まず注目されるのが「老化」と緑内障の関係です。現在の医学では、老化は単なる自然現象ではなく、検査や治療の対象となる“疾患に近い状態”として研究が進んでいます。実際に、高齢者ほど緑内障の視野障害は進行しやすく、眼圧も全身状態の影響を受けやすいことが知られています。また中年以降に発症する緑内障には、体の中の慢性的な炎症が関係している可能性も指摘されています。

さらに興味深いのは、高齢者の総合機能評価(CGA)と呼ばれる指標を用いると、緑内障手術後に起こりうる重い出血性合併症を比較的高い精度で予測できるという報告です。これは、緑内障の治療を考える際に、目の状態だけでなく患者さんの全身状態を総合的に評価する必要があることを示しています。

もう一つ重要な問題が「認知機能」です。研究によると、緑内障外来を受診する患者さんの約8%に認知機能低下の兆候がみられるとされています。緑内障は長期にわたる点眼治療が基本となるため、患者さん自身の理解や管理能力に依存する部分が少なくありません。このため最近では、人工知能(AI)を使った診断支援が注目されています。

例えば、OCT(光干渉断層計)で撮影した黄斑の画像から、AIが視野検査の結果を予測する技術が開発されています。これにより、患者さんが難しい視野検査を行わなくても、病状を推定できる可能性があります。

AIはさらに興味深い研究にも使われています。眼底写真をAIで解析すると、その人の「網膜年齢」を推定することができます。実年齢より網膜年齢が高い場合を「網膜年齢ギャップ」と呼びますが、この値は緑内障患者で高い傾向があることが報告されています。つまり、眼底は全身の老化状態を映す鏡のような役割を持っている可能性があるのです。この分野は「オキュロミクス(Oculomics)」と呼ばれ、眼の情報から全身の健康状態を読み取ろうとする新しい研究領域です。

また、緑内障の一種である落屑緑内障では、体内の「糖化終末産物(AGEs)」や酸化ストレスが増加し、抗酸化力が低下していることが知られています。これらの変化は全身の老化や生活習慣とも関係しています。体内で炎症や血管収縮が繰り返されることで眼圧が上昇し、病気が進行すると考えられています。

食生活との関連も研究されています。野菜摂取量の指標として用いられる「ベジスコア」は、体内のAGEsと逆の関係にあり、野菜を多く摂る人ほどメタボリック症候群や認知機能低下のリスクが低いことが知られています。ただし、カロテノイドそのものが直接緑内障を防ぐという証拠はまだ十分ではありません。一方で、ポリフェノールを含むサプリメントが眼圧をわずかに調整する可能性について研究が進められています。

さらに、血圧と眼圧の関係も単純ではありません。従来は「血圧が高いと眼圧も高い」と考えられがちでしたが、実際には自律神経の働きや血管の硬さなど複数の要因が複雑に関係しています。

近年では、電子カルテの文章をAIで解析する「緑内障BERT」という自然言語処理技術や、ウェアラブル機器を使って個人のデータを詳細に分析する研究も進んでいます。

こうした研究をまとめて考えると、緑内障は単一の原因で起こる病気ではなく、**年齢、遺伝、眼圧、眼の構造、血管状態、全身疾患、生活習慣など9つの要因が時間とともに影響し合う「多因子疾患」**と考えるのが適切だとされています。この概念は「緑内障病因複合体(GEC)」と呼ばれています。

今後、AIによる多角的なデータ解析が進むことで、患者さん一人ひとりに合わせた個別化医療や予防戦略がさらに発展することが期待されています。緑内障は「目の病気」であると同時に、「全身の健康状態を反映する病気」でもあるという新しい理解が、これからの診療の重要な視点になるでしょう。


出典

谷戸正樹:全身因子と緑内障.日本眼科学会雑誌 130巻3号:267–293,2026.

(第129回日本眼科学会総会 評議員会指名講演Ⅱ)

清澤のコメント:日眼総会での特別講演の記事が日眼会誌に乗りました。私のももっとも理解できそうな円台をまとめてみました。高齢者にとってはそうでなくても視野を嫌がる患者さんは少なくありま線。OCTで視野を予測するなどは、魅力的と思われます。

用語:

野菜摂取量の指標として用いられる「ベジスコア」:ベジスコア(Veggie Score / Vegetable Score)とは、人がどれくらい野菜を摂取しているかを簡便に評価するための指標で、主に日本では健康イベントや企業の健康管理、自治体の健康啓発などで用いられています。特に、血液ではなく皮膚のカロテノイド量を測定することで野菜摂取量を推定する方法として知られています。

電子カルテの文章をAIで解析する「緑内障BERT」という自然言語処理技術:「緑内障BERT(Glaucoma-BERT)」とは、電子カルテに書かれた文章(医師の診療記録)をAIで読み取り、緑内障に関する情報を自動的に抽出・解析する自然言語処理技術の一つです。近年、医療AIの分野で注目されている方法で、特に自由記載のカルテ情報を研究や診療支援に活用する目的で開発されています。「BERT」はAIの言語理解モデルです。正式名称はBidirectional Encoder Representations from Transformersで、2018年にGoogleの研究チームが発表した自然言語処理モデルです。

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