世界のコンタクトレンズ処方動向と日本の現在とこれから
コンタクトレンズは単なる視力矯正手段から、生活の質(QOL)や近視進行抑制を含めた医療的デバイスへと進化しています。東京都眼科医会報274号(2026冬号)に掲載された東邦大学堀裕一先生の論考を参考に、世界の処方動向と日本の特徴、そして今後の展望について整理してみたいと思います。
1.国際コンタクトレンズ処方調査
世界的にはソフトコンタクトレンズ、とくに1日使い捨てタイプが主流となっています。利便性と安全性の高さが評価されており、感染症リスクの低減という観点からも支持されています。加えて、近年はシリコーンハイドロゲル素材の普及により酸素透過性が飛躍的に向上し、長時間装用の安全性も改善しました。市場全体としても成長が続いており、多焦点レンズやトーリックレンズといった高機能レンズの比率が上昇しています。
さらに欧米では「視力矯正」だけでなく、「近視進行抑制」という新たな処方目的が重要視され、マルチフォーカルレンズやオルソケラトロジーの活用が進んでいます。
2.患者背景とレンズ種別に見る日本の特徴
日本の特徴としてまず挙げられるのは、ハードコンタクトレンズ(RGP)の処方割合が比較的高い点です。世界平均では約9%とされるのに対し、日本では20%前後と報告されています。
これは角膜形状を重視する日本の臨床文化や、不正乱視への対応を重視する診療姿勢と関係していると考えられます。
また、日本では眼科医による処方管理が比較的厳格であり、販売主導型の国と比べると医療主導の色彩が強い点も特徴です。一方で、装用者の高齢化が進む中で、老視対策としての多焦点レンズの普及はまだ欧米ほどではありません。
3.トーリックおよび多焦点レンズの国際比較
乱視人口の増加に伴い、トーリックレンズは世界的に急速に普及しています。
欧米では乱視矯正は「特別な処方」ではなく標準的選択となりつつあり、軽度乱視でも積極的にトーリックが処方されます。
一方、多焦点コンタクトレンズも高齢化社会を背景に需要が急増しています。特に欧米では40歳以上の装用者の多くに何らかの老視対策が施されています。日本では依然として単焦点+老眼鏡併用が主流ですが、今後は多焦点レンズの役割が拡大すると考えられます。
4.ハードコンタクトレンズと強膜レンズの国際動向
ハードコンタクトレンズは世界的には減少傾向にありますが、円錐角膜や術後不正乱視などの症例では不可欠な存在です。近年注目されているのが強膜レンズ(スケラルレンズ)で、角膜に接触せず涙液層を介して装用するため、重症ドライアイや角膜疾患に対する新たな選択肢として普及しています。
欧米ではこの特殊レンズ分野が急速に発展しており、「視力矯正」から「角膜治療デバイス」への役割拡張が見られます。一方、日本ではまだ普及途上であり、今後の導入体制整備が課題といえます。
5.今後の展望
今後のコンタクトレンズ医療は大きく3つの方向に進むと考えられます。
第一は「個別化医療」です。角膜形状解析やAIを活用し、より精密なフィッティングが可能になります。
第二は「治療デバイス化」です。近視進行抑制、ドライアイ治療、さらには薬剤徐放型レンズなど、治療目的での応用が広がるでしょう。
第三は「高齢社会への対応」です。多焦点レンズの進化により、老視世代のQOL向上が期待されます。
日本はこれまで高品質なハードレンズ文化を築いてきましたが、今後はソフトレンズの高機能化や多焦点化、さらには強膜レンズの導入を含め、国際動向とのバランスを取ることが重要です。眼科医が主導する安全で質の高い処方文化を維持しつつ、新しい技術を柔軟に取り入れることが、これからの日本のコンタクトレンズ診療の鍵となるでしょう。



コメント