角膜疾患

[No.4634] 周辺部角膜潰瘍をきたす疾患の見分け方と具体的治療(眼科医向け)

周辺部角膜潰瘍をきたす疾患の見分け方と具体的治療(眼科医向け)

角膜周辺部に潰瘍を生じる病態は、日常診療で遭遇する重要な領域ですが、その本質は多様であり、免疫性・全身疾患関連・変性・感染の鑑別が不可欠です。特に初期治療の方向性を誤ると穿孔や視機能の不可逆的低下に至るため、「どの病態か」を的確に見極めることが最も重要になります。

まず特発性周辺部角膜潰瘍、いわゆるモーレン角膜潰瘍は、輪部に沿って進行する自己免疫性の角膜融解疾患です。強い疼痛とともに弧状潰瘍が進行し、潰瘍辺縁のunderminingが特徴的です。臨床的には進行が速く、角膜穿孔のリスクが高いため、早期から積極的治療が求められます。具体的には、初期治療として0.1%ベタメタゾンあるいは0.1%フルオロメトロンなどの頻回点眼(1日4~6回以上)を開始し、炎症が強い場合は点眼回数をさらに増やします。これに加えてタクロリムス点眼(0.03%軟膏の眼瞼縁使用など)やシクロスポリン点眼を併用することもあります。進行例ではプレドニゾロン内服(例:0.5~1mg/kg/day)を導入し、さらに難治例ではシクロスポリンやアザチオプリン、メトトレキサートなどの免疫抑制薬を追加します。局所的に進行する場合には、結膜切除(いわゆるperitomy)により炎症細胞供給を遮断する方法や、羊膜移植による角膜表面の安定化、場合によっては層状角膜移植が検討されます。

これに対して膠原病に伴う周辺部角膜潰瘍(Peripheral Ulcerative Keratitis: PUK)は、全身性血管炎の局所 manifestation として理解すべき病態です。関節リウマチ、ANCA関連血管炎、結節性多発動脈炎などが背景にあることが多く、強膜炎や高度ドライアイを伴うことも少なくありません。進行はしばしば急速であり、局所治療のみでは制御困難です。治療としては、まずステロイド点眼を併用しつつ、全身治療を速やかに開始します。具体的にはプレドニゾロン内服(例:0.5~1mg/kg/day)あるいは重症例ではメチルプレドニゾロンパルス療法(500~1000mg/日×3日)を行い、その後メトトレキサートやシクロホスファミド、近年ではリツキシマブなどの生物学的製剤を導入します。角膜融解が進行している場合には、シアノアクリレート接着剤による穿孔予防や、羊膜移植・角膜移植による補強も併用します。いずれにしてもこの病態では「眼の病気ではなく全身疾患」として対応する視点が極めて重要です。

一方、テリエン周辺角膜変性(Terrien’s marginal degeneration, TMD)はこれらとは本質的に異なり、炎症を伴わない慢性進行性の角膜菲薄化疾患です。患者は疼痛をほとんど訴えず、上皮欠損も認めず、弧状の菲薄化と血管侵入が徐々に進行します。主な問題は不正乱視による視力低下であり、治療は保存的管理が基本です。具体的にはハードコンタクトレンズによる矯正や眼鏡処方で対応し、進行例では角膜輪部近傍の菲薄化に対して層状角膜移植や強膜パッチ移植を検討します。炎症が乏しいため、通常はステロイド点眼は必要ありません。

また、カタル性角膜潰瘍(周辺部角膜浸潤: marginal ca-tarrhal ulcers)は、ブドウ球菌抗原に対する免疫反応として生じる比較的軽症の病態です。角膜周辺部に小さな浸潤として出現し、疼痛も軽度であることが多いですが、感染性角膜潰瘍との鑑別が重要です。治療としては、レボフロキサシンやモキシフロキサシンなどの抗菌点眼を併用しつつ、0.1%フルオロメトロンなどの軽めのステロイド点眼を1日3~4回程度使用すると、多くは数日から1週間で改善します。同時に眼瞼炎の治療として、眼瞼清拭や温罨法、場合によってはアジスロマイシン点眼やマクロライド内服を併用することも再発予防に有効です。

このように周辺部角膜潰瘍の診療では、痛みの強さ、上皮欠損の有無、炎症の程度、進行速度、そして全身疾患の有無を総合的に判断することが重要です強い疼痛と急速な進行を伴えばモーレン潰瘍やPUKを疑い、痛みが乏しく慢性経過であればテリエン変性を考えます。また、治療に入る際には必ず感染性角膜潰瘍を除外することが原則であり、疑わしい場合にはまず抗菌治療を優先します。

総じて、周辺部角膜潰瘍の診療は「免疫反応による角膜融解をどこまで抑えるか」と「全身疾患との関連をどこまで見抜くか」に集約されます。局所治療のみで対応できる症例はむしろ限られており、特にPUKでは全身治療の導入タイミングが予後を大きく左右します。したがって、眼局所所見に加えて全身背景を常に意識し、必要に応じて他科と連携することが、実地診療において極めて重要です。


■ 参考文献

・周辺部角膜潰瘍【私の治療】日本医事新報(2026年3月21日)

・MSDマニュアル Peripheral corneal ulcer

・日本眼科学会関連資料

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