生命を見つめるフォト&エッセー 第5回の冊子が届けられ通読しました。写真は、達下才子さん(岩手県)の作品で秋の縁側です。何十年か後にこの娘さんも、おばあちゃんを懐かしく思い出すことでしょう。エッセーでは審査員特別賞の「もうええか?」という長浜京香さんのエッセー(https://www.med.or.jp/people/photo_essay/010543.html)は、大脳皮質基底核変性症(脚注)で御祖母さまが亡くなって一年後の思いを書いておられます。去り行く人をこのように優しく見送ってあげられる人を、大変いとおしく思いました。私は特に次のフレーズに打たれました。
そんな祖母が突然、隣で手を握る私に「もうええか?」といった。食べることも水を飲むこともできない祖母が、力を振り絞ってはなった言葉が、「もうええか?」だった。祖母が何を確認しようとしていたのかは分からない。ただ私には。「頑張らなくても、もうええか?」「私がいなくても、もうええか?」そのように言っているような気がして、「何がええの~」と誤魔化す私の目からボロボロと涙があふれた。そして返事をする前に、祖母は逝ってしまった。―――
選者の養老孟子先生は:おばあちゃんの生き方を「もうええか?」という一言に凝集し、世代を超える生き方の倫理を言い当てる。くだくだしい説明をせず、「かっこいい」という若者らしい一言で表現するところが、爽快ですがすがしい。この文章自体が「かっこいい」のである。と評しています。
無粋な注で恐縮ですが:大脳皮質基底核変性症とは、大脳基底核および大脳皮質の神経細胞が脱落し、タウ蛋白という異常なたんぱくが蓄積する変性疾患。 大脳基底核の症状であるパーキンソン病様の運動症状(筋肉の硬さ、運動の遅さ、歩行障害など)と大脳皮質の症状(手が思うように使えない、動作がぎこちないなど)の両者を併せ持つことが特徴。根本療法はなく、全て対症療法。治療の目標症候は、無動・筋強剛、ジストニア、ミオクローヌス。無動・筋強剛に対してレボドパが用いられる。しかしながら効果はあっても一過性。ジストニアに対して抗コリン薬(アーテン)、筋弛緩薬が試みられるが、有効性は高くない。その場合はボツリヌス注射が行われる。ですから、開瞼維持困難の症状(眼瞼痙攣)があれば、私も眼輪筋へのボトックス投与を行うことがあります。ミオクローヌスに対してクロナゼパムが有効。合併例や背景病理にアルツハイマー病が含まれている可能性もある、とのこと。
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