専門家へ経済のぶっちゃけ話を聞く番組「経済の話で困った時にみるやつ」。2022年最後となる金融政策決定会合で、日本銀行は現在の金融緩和策の一部を修正し、事実上の利上げを行うことを決めました。なぜこのタイミングになったのか?2023年の金融政策はどうなるのか?掘り下げていきます。

■予想外の“矛盾した政策” 背景に「脱アベノミクス」? 黒田総裁は「メンツ」を気にかけた?

赤荻 歩(TBSアナウンサー)

日銀は2022年最後の金融政策決定会合を終えました。そこで従来0.25%程度としてきた長期金利の変動幅を0.5%に拡大することを決めました。事実上の“利上げ”とみられています。

一方で、今回の措置について、黒田総裁は「金融緩和の効果をより円滑にするためのもので、利上げではない」と説明しています。その上で「出口戦略の一歩ということではない。議論するのは時期尚早」としています。

また「さらなる変動幅の拡大は必要ないし、今のところ考えていない」「共同声明の見直しは必要ない」としています。まず今回の措置をどう受けとめましたか?

末廣 徹(大和証券チーフエコノミスト)事実上の利上げって言っておきながら、黒田総裁は利上げじゃないという何かいろんなところで矛盾みたいなものが起きたという意味でも、こういう変更は誰も予想してなかった。理解が難しいような政策決定に至ったプロセスみたいなものを時系列に見ていく必要があると思っていて、思い切って10年前から振り返ろうかなとも思います。

2021年12月に第2次安倍政権が誕生し、2013年の2月に、政府・日銀は共同声明を発表します。できるだけ早くインフレ目標2%を達成するようにお互い頑張っていきましょうと。2013年の4月に黒田総裁が就任し、国債をたくさん買い入れて金利を押し下げる「異次元緩和」をやるんですけども、なかなか2%も達成できなかったと。そして2016年にもっと金利を下げてやろうってことで「マイナス金利」が導入されます。「マイナス金利」っていうのは、短期の金利を押し下げるっていう政策なので、長期の金利も全部、押し下げようっていうことで導入されたのが「イールドカーブコントロール」という政策。現在はこの「マイナス金利政策」と「イールドカーブコントロール」という政策が2016年からずっと続いているという状況ですね。

しかし、2023年の4月に黒田総裁がいよいよ任期切れで次の総裁が誰か注目されているんですけども当初は、次の総裁も基本的には黒田路線を引き継ぐだろうと、アベノミクスの継承という形で岸田政権も始まったわけですから、そんな変わらないと見られていた。ところが、12月になってからまさにアベノミクスの始まりであり、黒田緩和の始まりである共同声明を、改定した方がいいんじゃないかとか、政府はどうやら改定しようとしているみたいな話が出てきた。この共同声明が改定されるという話が出てきたのは、実は重要だったと思うんですよね。なぜ共同声明が変わるって話が出てきたかというと、アベノミクスの象徴を変えるっていうことなんで、まさに「脱アベノミクス」ですよね。脱アベノミクスが始まってるんじゃないかと。

ただ、黒田総裁の気持ちになると、政治サイドから「脱アベノミクス」を感じてこのままいくと、自分の10年間が否定されてしまうっていう気持ちが出たのではないかと。なので、金融緩和も維持したいんだけれども、最後の方にはその緩和の巻き戻しっていうのも少しやっておきたいと。今後、一気にアベノミクス路線、黒田路線がひっくり返ったときに「黒田総裁は10年間、間違っていたのではなくて、最後の方にはちゃんといろいろ考慮して動いていた」という評価になる。そういう意味で、黒田総裁は、最後にどう評価されるのかというメンツみたいなものも多分あったんじゃないか。