先日、日本医事新報に意見を公表した乳児虐待症候群に関連して、新しい論文が出たと藤原先生が教えてくれました。
英文の論文であり、短いものではありませんから考案部分を含めて、ゆっくり全文を読ませていただこうと思います。その肝心な点は、乳児虐待症候群の眼底出血の成因に関わる部分(その網膜出血は議論の初期に考えられたように硝子体による網膜牽引による出血なのか?それとも(動脈瘤破裂の)急性硬膜下出血で見られるテルソン症候群のような脳圧亢進の結果なのか?という点)だと思います。私が思うところでは、おそらく初期の議論では眼球に対する外傷が主に想定されていたのだが、のちに網膜出血には脳圧亢進による眼内出血が相当数混在しているという推定になっていったのではないでしょうか?
本文に先立って、序文の部分に2011年の米国最高裁の判例が引用されています。10年ほど前の、この判決は6対3で乳児虐待を行ったとされた親を有罪にしたのですが、少数派になった一人の判事が、「50年前に提唱された『眼底出血』はもはや乳児虐待の確証とは言えない」という事を述べていたのだそうです。その序文の翻訳をここに引用しておきます。Tersonn関連部分のデスカッションは後で読んでみます。
Cynthia K Harris & Anna M Stagner (2022): The Eyes Have It: How Critical
are Ophthalmic Findings to the Diagnosis of Pediatric Abusive Head Trauma?, Seminars in
Ophthalmology, DOI: 10.1080/08820538.2022.2152712
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前書き
2011 年、米国最高裁判所は Cavazos v Smith 事件で 6 対 3 の判決を下しました。 この事件は、生後 7 週の乳児が揺さぶられっ子症候群 (SBS) で死亡したという十分な証拠があるかどうかに部分的に集中していました。 過半数は重罪で子供を危険にさらしたシャーリー・リー・スミスの有罪判決を支持したが、ルース・ベイダー・ギンズバーグ、スティーブン・ブレイヤー、ソニア・ソトマヨールの 3 人の判事は反対した。 有罪判決が覆されるべきであると主張する中で、少数派のために書いたギンズバーグは、証拠がSBSを適切な診断として支持するかどうか疑問を呈し、「乳児が揺れだけで致命傷を負う可能性があるかどうかについて、医学界で疑いが高まっている」と指摘した. 」1 ギンズバーグは、「1998 年末までに、『因果関係、診断、治療、または SBS に関連するその他の問題のほとんどの側面について、確固たる結論に達するための科学的証拠は不十分であった』ことが明らかになった」と主張した。 「乳児の [硬膜下出血] および [網膜出血] の所見は、SBS の強力な証拠であるという一般的な意見は持続不可能である.」1 Ginsburg はまた、「現在の情報に照らして、 検察の専門家が今日、1997 年に行ったように断固として証言する可能性は低い [. . . .] 最近の科学的意見は[彼らの]証言を弱体化させています.1 小児虐待による頭部外傷 (AHT) は、口語的に以前は「揺さぶられっ子症候群」として知られていましたが、半世紀以上前に初めて報告されました。 その診断の有効性をめぐる論争は、法制度に対する診断の関連性によって大きく促進されて、その後の数年間で大きくなっただけです。 多くの点で、AHT の子供を診断することは、医学的診断であると同時に非難でもあります。 おそらく当然のことながら、AHT の診断をめぐる医学的議論は明らかに法的な性格を帯びてきました: 臨床医が合理的な疑いを超えて AHT の診断を下すことを可能にする証拠はありますか? より医学的にわかりやすい言葉で言えば、AHT に特徴的な所見はありますか?
AHT に関する議論では、特徴的な臨床所見の「トライアド」に言及することがよくあります。網膜出血、硬膜下出血、および脳浮腫です。 – 虐待による頭部外傷 (nAHT)。 この論文では、AHT の歴史、臨床的および組織病理学的所見、および診断をめぐるいくつかの論争について説明します。
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