ぶどう膜炎

[No.1972] 急増:「梅毒」が引き起こす目の病気(日刊ゲンダイ自著記事から)

清澤のコメント:年間1万6300人超ペース、「梅毒」が引き起こす目の病気(日刊ゲンダイ自著記事から)を採録します。ブドウ膜炎の側から梅毒性ブドウ膜炎の割合を見ると5%程度だそうです。今回は学術用語も多いので末尾に用語解説も追加しました。

 

=眼科の診察だけではわからない=血液検査が必要

 梅毒感染が止まらない。国立感染症研究所が8月29日に発表した感染症発生動向調査週報速報33週(8月14日~20日)によると、報告された梅毒の新規感染件数は168件、年初からの累計は9482件となった。前年同期の累計は7525件だったことから26%増となり、このままのペースで増え続けると年間累計は1万6300件超となる計算だ。皆さぞかし感染に神経質になっているかと思えばさにあらず。人によっては「梅毒になっても昔みたいに何度も通院しなくても1回の注射で治る持続性ペニシリン注射剤がある。心配することないよ」と甘く見る人がいるが、これは間違いだ。例えば梅毒はさまざまな目の病気(梅毒性眼疾患)を引き起こし、視力障害の引き金になることもある。自由が丘清澤眼科(東京都目黒区)の清澤源弘院長に話を聞いた。

「梅毒性眼疾患は、梅毒の病原体である、トレポネーマ・パリドウムが目に感染したときに発症する目の病気です。梅毒の症例の2・5%~5%と報告されていますが、臨床症状が多彩で特徴的な所見に乏しいため、実際にはもっと多いのではないか、と思います。病原体は眼のあらゆる組織を侵して、結膜炎や硝子体炎、網膜血管炎、網脈絡膜炎、視神経乳頭炎、滲出性網膜剥離、網膜中心静脈閉塞、強膜炎などを発症します。そのため、海外では『偉大な仮面舞踏会』とも呼ばれています」

 なかでも多いのが目の中に炎症を起こす病気の総称であるブドウ膜炎で、視神経炎、硝子体炎といった後眼部病変が目立つ。

「症状は両目にあらわれることが多く、充血、視力低下や視野欠損、かすみ目、飛蚊症、羞明が起きることが知られています」

 梅毒によるブドウ膜炎で多いのは、目の奥に位置する網膜や脈絡膜に炎症が起きる網脈絡膜炎で、この病気は硝子体炎を伴い、徐々に大きな病変になるという。

急性梅毒性後部プラコイド脈絡網膜炎では網膜中央の黄斑部に黄白色病巣をきたし、これはかつてHIV感染を合併した梅毒患者に特徴的な病態とみられていました。しかし、いまはHIVとは関係なく、梅毒性眼疾患に特徴的な病態と考えられています」

 梅毒は病期による分類がなされているが、梅毒性眼疾患も臨床症状から病期や感染時期をある程度推測が可能だといわれている。

「胎児が経胎盤的に母親から移される先天梅毒では生後3カ月頃までに眼底に網脈絡膜炎を生じます。乳幼児期は虹彩炎や涙嚢炎など、また学童期以降では角膜実質炎なども生じ、生涯にわたり、角膜実質炎混濁を残すことがあります」

 成人では感染から1カ月前後の早期梅毒第1期には眼瞼や結膜にも感染の仕方によっては潰瘍を生じる場合があるが、梅毒による眼の潰瘍は見逃されるケースも少なくないという。

「感染から1~3カ月ごろの早期梅毒第2期には今回問題としている梅毒性ブドウ膜炎が多くなります。最初は前部ぶどう膜炎として虹彩毛様体炎を発症することが多く肉芽腫性を呈することもあります。ステロイド点眼薬に抵抗して虹彩前癒着や虹彩萎縮を残すこともあります」

 後部ぶどう膜炎では、眼底に出血を伴い、網膜血管炎を生じる場合もみられます。視力を出すのに重要な視神経乳頭部に散在性の網脈絡炎を発症し、その後網膜色素変性症様変化を生じることもある。硝子体混濁や強膜炎などもこの時期にみられる病態だという。

「第3期になると、眼瞼ゴム腫や二次性網膜色素変性症などが見られるが、治療は困難となります」

 

 そもそもぶどう膜炎は梅毒由来か否かにかかわらず、先進国の失明の5~20%、発展途上地域では25%近くを占め、罹患者の3分の2が長期的に視力喪失を経験する。当然、生活の質も低下する。ブラジルで梅毒性眼疾患の治療を受けた成人32人に視覚の生活の質(QOL)を測定したところ、40歳以上あるいは視力の悪い人のスコアは低かったと報告されている。

「梅毒性眼疾患の重大性を考えれば早期発見早期治療は不可欠です。しかし、その多様な病態を考えれば、眼科医の診察だけで梅毒性眼疾患のリスクを知ることは難しい。梅毒と診断された人が眼科を受診するのはもちろんのこと、梅毒の疑いがある人は眼科医にその可能性を告知することも大切です」

 

前回の梅毒関連記事:https://jiyugaoka-kiyosawa-eyeclinic.com/budou/7069/

 

清澤追記注:

〇 トレポネーマ・パリドウム:梅毒トレポネマは、直径0.1-0.2µm、長さ6-20µm、巻き数6-14のらせん状菌である。青い色彩を放つ性質があり、「青い」を意味するpallidum(ラテン語)の種名がつけられた。低酸素状態でしか長く生存できない。梅毒トレポネマは通常の明視野光学顕微鏡では視認できず、暗視野顕微鏡、電子顕微鏡で観察される。

 

〇 「ステルイズ®水性懸濁筋注60万単位シリンジ/240万単位シリンジ」(一般名:ベンジルペニシリンベンザチン水和物) 本剤は、梅毒の治療薬として開発された持続性ペニシリン製剤。ステルイズは早期梅毒に対して単回投与で治療効果が期待できること、アドヒアランスの低下による治療失敗は考え難いこと、これまで海外では梅毒患者の治療に貢献してきた実績があること、また、これまで耐性菌の報告がないこと等を踏まえ、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬」として要望され、厚生労働省よりファイザーに開発要請がありました。この度「梅毒トレポネーマ」を適応菌種、「梅毒(神経梅毒を除く)」を適応症として承認を取得した。

〇 急性梅毒性後部プラコイド脈絡網膜炎:急性梅毒後部プラコイド絨毛網膜障害(ASPPC),即時治療を必要とする眼梅毒の稀で明確な症状である。ASPPC,絨毛毛細血管,網膜色素上皮および光受容体の破壊に起因する。光学的コヒーレンストモグラフィー血管造影(OCTA),絨毛毛細管血流を評価でき,ASPPCの疾患過程に関するさらなる情報を提供する可能性がある。

 

〇 先天梅毒:梅毒に罹患した母体から胎盤を介して胎児に梅毒トレポネーマが感染することにより、母体のいずれの病期でも起こりうる。出生時は無症状のことが多いが、早期先天梅毒では、生後数ヶ月以内に水疱性発疹、斑状発疹、丘疹状の皮膚症状に加え、全身性リンパ節腫脹、肝脾腫、骨軟骨炎、鼻閉などを呈する。晩期先天梅毒では、生後約2年以降にHutchinson3徴候(実質性角膜炎、内耳性難聴、Hutchinson歯)などを呈する。

日刊ゲンダイヘルスケアへの転載:

https://hc.nikkan-gendai.com/articles/279474

同記事:Yahooニュースへの転載:

https://news.yahoo.co.jp/articles/a7abf6c7d5859da22483968db34c88ce922ccb30

 

 

日刊ゲンダイ過去の関連記事です

https://hc.nikkan-gendai.com/articles/279371

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