リファレンス: journal.nichigan.or.jp
第128巻第3号
評議員会指名講演Ⅲ
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第127回 日本眼科学会総会 評議員会指名講演Ⅲ
炎症・感染とこれからの眼科診療
眼内免疫システムの発達と免疫疾患発症における常在細菌との相互関係解明への挑戦
大阪大学大学院医学系研究科視覚情報制御学寄附講座
キーワード
免疫寛容, 細菌性眼内炎, メタゲノム解析, サルコイドーシス, Cutibacterium acnes, 硝子体細胞, プロテオミクス, ミクログリア, Pax6, シングルセルRNAシークエンシング
免疫寛容, 細菌性眼内炎, メタゲノム解析, サルコイドーシス, Cutibacterium acnes, 硝子体細胞, プロテオミクス, ミクログリア, Pax6, シングルセルRNAシークエンシング
眼は免疫特権を持つ組織として知られている.Blood-tissue barrierの存在やリンパ管・リンパ組織が欠如しているため,定常的な免疫細胞の侵入が許されていない.そのため,外部から「異物」が侵入しても,排除するシステムが機能しないどころか,異物への免疫寛容が成立し,異物は眼内にとどまることが可能である.異物が眼内に侵入したときに,初期に働くのは自然免疫細胞であるミクログリアである.ミクログリアは謎に包まれた細胞であり,ミクログリアの起源や働きについては未だ議論がなされている.我々は独自の手法でこの謎に取り組んできた.そして我々は一つの答えを導き出し,眼内ミクログリアの発生根拠から,眼は独自の免疫システムを確立している可能性を見出した.
臨床において,眼独自の免疫システムが問題となるのは眼外から侵入した異物への対応である.我々眼科医が異物の中で最も嫌うのが細菌であることはいうまでもない.なぜなら,細菌が眼内にとどまり増殖することで,眼組織にとって致命的なダメージを与えるからである.特に眼内手術後の細菌感染は最も避けたい病態である.そのため,眼組織における細菌感染では,迅速かつ正確な診断法が必要だが,未だに確立されていない.この要因として,検体量が微量であること,検体採取時点ですでに抗菌薬による治療が開始されていることが考えられる.細菌の確実な同定ができないまま治療を継続することは,回復が遅れ,視機能に重大な損失を与えてしまう可能性がある.そのため,眼感染症診断法は,早急な発展が必要なアンメットニーズの分野である.新規診断方法を開発し,得られた結果より,病態の解明と適切な治療の選択を行うことで,眼を壊滅的な障害から回避することが可能となると考えている.
本総説では,①細菌性眼感染症の新規迅速診断システムの探索,②眼内感染症と宿主との相互関係で発症する疾患の病態およびその治療法の探索に取り組み,また ③眼の免疫システムに関連するミクログリアの発生とその特徴をヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来眼オルガノイドより紐解いたので紹介する. (http://journal.nichigan.or.jp/Disp?style=full&vol=128&year=2024&mag=0&number=3&start=256)
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