日本では1,200万例以上の患者が存在するといわれ、比較的女性に多いとされるドライアイ。涙液層の安定性が低下することで発症し、眼不快感や視機能異常を伴うこともある。その原因の1つに涙液が蒸発するマイボーム腺機能不全(MGD)がある。東邦大学医療センター大森病院眼科教授の堀裕一氏は、ルミナス・ビージャパン主催のメディアセミナーで講演し、MGDを伴うドライアイ診療の現況と新たな選択肢であるIntense Pulsed Light(IPL)治療の有用性について説明した。

涙液表面の脂質不足がドライアイの原因に

 眼瞼に存在するマイボーム腺は、涙液表面の油層を形成する脂質を分泌している。油層には水の蒸発防止、涙液への粘性や弾性の付与、角膜表面の潤滑化などの働きがあり、MGDにより脂質が分泌されなくなると、涙液層が不安定化してドライアイを引き起こす。

 MGDは近年提唱された比較的新しい疾患概念で、ドライアイ研究会のMGDワーキンググループではMGDを「さまざまな原因によってマイボーム腺の機能がびまん性に異常を来した状態で、慢性の眼不快感を伴う」と定義している。

 MGDの診断では、まず眼不快感などの自覚症状の有無を確認した後、マイボーム腺開口部周囲の異常所見や開口部の閉塞所見をチェックする。堀氏によると、MGDを伴うドライアイとその他の原因によるドライアイには乾燥感や圧迫感を感じるなど症状が重なる部分があり、両者を明確に鑑別するのは難しいという。

 なお、これまでの研究でコンタクトレンズ(CL)装用がマイボーム腺の機能障害に関連することが分かっている。CL装用群121例(平均年齢31.8歳)と非装用の健康対照群137例(同31.4歳)でマイボグラフィによるマイボーム腺スコアなどを比較したところ、CL装用群では同腺スコアが有意に不良で(P<0.0001)、平均値は60歳代と同等だった(Ophthalmology 2009; 116: 379-384)。

美容皮膚科領域で用いられてきたIPL治療、眼科領域でも期待

 現在、国内で主に行われているMGDの治療法は、綿棒やアイマスクなどによるセルフマネジメントと抗菌薬による薬物治療に大別される。さらに、近年ではIPL治療機器やサーマルパルセーションシステム(Lipiflow)などのデバイスを用いた新たな治療法も登場している。

 IPL治療はこれまで主に美容皮膚科領域で用いられてきたが、MGDを伴うドライアイ治療への有効性が米国の研究で示され、2021年に米食品医薬品局(FDA)の承認を取得。その後、昨年(2022年)12月にルミナス社製のOptiLightが日本で医療機器製造販売承認を取得した。

 MGD患者31例62眼(女性17例、平均年齢47.6±16.8歳)を対象とした国内多施設研究では、IPL治療と鑷子によるマイボーム腺圧出の併用により、MGDの自覚症状、他覚所見とも有意な改善が示されているCornea 2019; 38: e4)。

 堀氏は「マイボーム腺に異常を来すと、ドライアイだけでなく眼の痛みなどの自覚症状を引き起こす。また、涙液が十分に保たれている例でも、MGDを疑い見逃さないようにすることが重要」と指摘。その上で、「近年、MGDに対するIPL治療機器など新しい治療法が登場している。日本からエビデンスが多数示されており、今後多くの患者に恩恵を与えることが期待されている」と述べた。

(小野寺尊允)(Medical Tribune=時事)(2023/02/10 13:53)

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