50歳代の女性で、両眼の開閉はそれほど悪くないにもかかわらず、両眼の角膜中央に露出性角膜炎を認め、しかも矯正視力が低下しているという症例について、年齢を加味した鑑別診断をかんがえます。(この写真は自分で見たものではありません。)
🔍 鑑別すべき疾患・状態(50歳代女性、角膜中央部の露出性角膜炎)
- 夜間兎眼(Nocturnal Lagophthalmos)
- 年齢層でも頻度が高まる。
- 就寝中に軽度の眼瞼開大があり、角膜の中心部が乾燥・障害される。
- 朝に強い異物感・痛みを訴えることが多い。
- 他覚的には閉瞼時に隙間がないように見えても、睡眠中の軽度兎眼は意外に多い。
- 不完全瞬目(Incomplete Blink)
- 中年女性では眼瞼の皮膚弛緩や下眼瞼の外反傾向で瞬目が不完全になりやすい。
- ドライアイやVDT作業の影響で、瞬目の頻度低下+瞬きが浅いことが原因に。
- 角膜の中央〜下方に乾燥性障害を起こす。
- ドライアイ(特に蒸発亢進型/涙液層不安定型)
- 55歳女性ではホルモン変化(エストロゲン低下)によりドライアイが増加。
- マイボーム腺機能不全(MGD)を伴う蒸発亢進型が多く、中央部の露出性変化を引き起こす。
- BUT低下、色素染色で角膜中央部に点状染色。
- 甲状腺眼症の軽症例(subclinical thyroid eye disease)
- 明らかな眼球突出や眼瞼後退がなくても、軽度の眼瞼裂拡大や瞬目障害があり得る。
- 両眼性、中央部の乾燥を認める。
- 甲状腺疾患の既往や現在のホルモン値を確認。
- 眼瞼下垂や眼瞼皮膚弛緩による眼瞼裂開大
- 皮膚弛緩(Dermatochalasis)や軽度の下垂で瞬目運動が阻害される。
- 結果的に露出性角膜炎様の所見を呈することがある。
- 開瞼力は保たれていても、閉瞼の質が悪化している点に注意。
- ボトックス注射後や眼瞼下垂手術後での軽度兎眼や瞬目障害
- 美容目的でボツリヌストキシンを上顔面に注射し足り下垂手術を受けていると、閉瞼力が微妙に低下し、露出性変化が現れることがある。
- 自覚なしで受けている例もあるため、施術歴の確認が必要。(この症例はボトックス投与は受けていない。)
- 涙液分泌低下型ドライアイ(シェーグレン症候群など)
- 閉瞼に問題がなくても涙液量が低下すれば中央部の乾燥が強くなる。
- 両眼性・中央優位の角膜障害として現れる。
- 自覚症状少なく見逃されやすいため、Schirmer試験や血清マーカーの検討も視野に。
🔎 推奨される観察ポイントと検査
観察・検査項目 |
目的 |
瞬目の質と頻度(観察) |
不完全瞬目、瞬目頻度低下の確認 |
睡眠中の閉瞼状態 |
夜間兎眼の確認(家族や録画) |
BUT・フルオレセイン染色 |
涙液安定性と角膜障害分布 |
Schirmer試験 |
涙液分泌低下の有無 |
マイボーム腺評価 |
蒸発亢進型のドライアイ確認 |
甲状腺機能 |
軽度甲状腺眼症の評価 |
ボトックス治療歴 |
美容注射による眼瞼運動障害の除外 |
✍ 患者説明向け短文
50歳を過ぎると、目が乾きやすくなる方が増えてきます。特に、睡眠中の目の閉じ方が不完全だったり、まばたきが浅かったりすると、目の表面が乾いてしまい、中央の角膜に傷がつくことがあります。ドライアイの進行や、ホルモン変化、生活習慣(スマートフォンの長時間使用など)も影響します。日中は異常がなくても、朝にゴロゴロしたり目が赤くなったりする場合は、早めの診察をお勧めします。
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