臨床の質問37:眼瞼痙攣において心理学的、精神医学的関連は有りますか
回答:眼瞼けいれんは精神疾患ではなく、大脳基底核異常に基づく成人発症の局所ジストニアである”(1A=強く推奨し、効果に強く確信が持てる)。
一方で、うつ、強迫性障害。不安障害などの合併が高率に報告され、睡眠障害を含む、多くの精神症状が生涯にわたって関与しうる(1B=弱く推奨し、効果に中等度の確信が持てる)、また精神心理要因で生じた眼瞼けいれんも、分類上存在し症例報告も存在する。しかし、これらは他の局所ジストニアにも見られ、眼けいれんに特異的なものではなく、身体的不調に対する二次的な反応とする考えが一般的である。(CQ24眼瞼けいれんにおいて精神症状のかかわりは有りますか)も参照:(清澤注:今後この項目も紹介予定とします)
回答:眼験けいれんでみられる症状は複雑で、眼瞼を中心とした運動系障害以外に、差明・眼痛などの感覚系の異常、精神医学的な異常、睡眠障害などが現れる。Wenzelらの報告では31例中、71%に精神医学的な異常がみられ、中でも鬱(うつ)、気分変調症、強迫神経症などの合併が多いとされている。Wakakurasらの報告でも、本態性眼瞼けいれんの40.1%,薬剤性眼験けいれんの61.4%に気分障害の合併が報告されている。しかし、うつなどの精神医学的異常は、他の局所ジストニアでも健常人に比べ、高率に認められることから、一般的にはジストニアに由来する身体的不調の二次的な反応と考えられている。実際に、ボトックス治療による眼験けいれんの軽快とともに、健康関連QOLとうつ症状は有意に改善されると報告されている。
しかしながら、眼験けいれんでは片側顔面痙攣に比べて、うつや不安症状の合併が多く、眼瞼けいれんの発症に強いストレスが契機となることが多いことと考えあわせ、生来の精神医学的特徴が発症に関与している側面も否定できない。さらにHwangによる系統的レビューでは、眼験けいれんおよび頸部ジストニアを有する患者の40~70%に睡眠障害が認められSunらも睡眠障害と眼験けいれんとの関連性を確認している。睡眠障害を改善しようとべンゾジアゼピンを服薬し、その一部では悪循環を形成する可能性もある。
一方、強迫神経症の合併に関しては、反応性の精神医学的兆候の側面だけでなく、大脳基底核病変との関連も推測されている。大脳基底核の梗塞や出血後に強迫神経症の発症が報告され、また強迫神経症で基底核異常が機能画像で指摘されている。さらに、ジストニア(dystonia)との関連が知られているDYT1遺伝子とうつや強迫神経症の関連が指摘され、遺伝的素因を介している可能性も指摘されている。
清澤の追加コメント:眼瞼痙攣を訴えて来院する初診患者では、セスディーによるうつ症の評価を行うが、これが異常地を示す患者は多い。またボトックス投与後にはこの値が正常値に入る患者も多い。それゆえ、私もこのうつ症は、上記回答のように基本的には眼瞼痙攣に対する反応性の物であろうかと考えている。また、ボトックス投与に併せて必要に応じて抑肝散加陳皮半夏を処方し、本人の意思で内服を続ける患者もいる。さらに、基本的にベンゾジアゼピンの使用は眼瞼痙攣雄原因ともなるからその使用を避けるが、痙攣自体の抑制のためにリボトリールやアーテンの最小量処方を必要とする患者も存在する。
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