眼瞼痙攣

[No.3838] 眼瞼けいれん治療の新潮流:画一的治療から個別化治療へ:新論文紹介

眼瞼けいれん治療の新潮流:画一的治療から個別化治療へ
Laura M. Scorr & Hyder A. Jinnah
Expert Review of Neurotherapeutics, Published online: 14 Jul 2025
原典はこちら

背景

眼瞼けいれん(Blepharospasm)は、目の周りの眼輪筋やその近くの筋肉が過剰に収縮するジストニアの一種です。まぶたが勝手に閉じてしまい、日常生活や仕事に大きな支障をきたします。現時点での治療はあくまで症状を和らげる対症療法であり、根本的な治療は存在しません。
一般的には、ほとんどの患者に対して同じような治療法(標準化された治療)が行われています。しかし患者の症状は一様ではなく、「けいれんが強いタイプ」「目を開けにくいがけいれんは目立たないタイプ」「瞬きが異常に多いタイプ」「これらが混在するタイプ」など多彩です。このため、画一的な治療では十分な効果が得られないことも少なくありません。

目的

本レビュー論文は、

  1. 眼瞼けいれんの症状(現れ方=フェノメノロジー)と従来の治療法を整理する
  2. ボツリヌス毒素(ボトックス)注射、内服薬、外科的治療のエビデンスをまとめる
  3. 個々の患者の症状に合わせた個別化治療(personalized approach)の有効性を強調する
    ことを目的としています。

方法

著者らは、PubMedデータベースを用いて、19854月から20255月までに発表された眼瞼けいれん治療に関する論文を収集し、既存の知見を包括的にレビューしました。
対象とした治療法は以下の通りです。

  • 第一選択:ボツリヌス毒素注射
  • 補助療法:経口薬(抗コリン薬、筋弛緩薬など)
  • 外科的治療:眼輪筋部分切除、深部脳刺激(DBS)など

結果(要点)

  • 症状の多様性
    患者によって、けいれんの強さ、瞬きの多さ、目の開きにくさの組み合わせが異なる。
  • 標準治療の限界
    ほとんどの患者に画一的な注射パターンが適用されているが、症状が部分的にしか改善しない場合がある。
  • 個別化治療の利点
    患者ごとに、けいれんの分布や非運動症状(光過敏、眼の疲れ、不安など)を評価し、注射部位や薬の選択を調整することで効果が高まる。
  • 今後の課題
    治療選択の指針となるバイオマーカーの特定、疾患そのものを変える可能性のある治療法の開発、より正確な症状評価法の確立が重要。

コメント(院長所感)

私の臨床経験でも、同じ「眼瞼けいれん」という診断名であっても、患者さんによって症状は千差万別です。標準的なボトックス注射だけで十分改善する方もいれば、注射パターンの微調整や内服の併用が必要な方もいます。私は、眼瞼痙攣治療を成功させる10のコツをまとめて置き、可能な追加治療法を探すようにしておりますが、この論文を見ますとそのアプローチが正しかったことがわかります。このレビューは、その多様性に正面から向き合い、「オーダーメイド治療」こそが今後の方向性であることを明確に示しています。今後はバイオマーカー研究が進めば、さらに精密な治療選択が可能になるでしょう。

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