眼瞼痙攣治療におけるインコボツリヌムトキシンAの有効性と安全性:日本における多施設第3相試験
【背景】
眼瞼痙攣(がんけんけいれん)は、まぶたを閉じる筋肉が自分の意思とは関係なく過剰に収縮してしまう神経疾患です。両側のまぶたが同時にけいれんし、まばたきが止まらなくなったり、目が開けづらくなったりします。強いまぶしさ(羞明)、ドライアイ、眼痛を伴うことも多く、症状が進むと外出や読書が困難になるなど、生活の質を大きく損ないます。日本では約2万8000人の患者さんがいると推定され、女性に多い疾患です。現在、世界的に第一選択とされている治療はボツリヌス毒素注射です。日本では主にオナボツリヌムトキシンA製剤が用いられてきましたが、より精製度の高いインコボツリヌムトキシンAについて、日本人患者を対象とした検証は十分とは言えませんでした。
【目的】
本研究は、日本人の眼瞼痙攣患者に対するインコボツリヌムトキシンAの有効性と安全性を、多施設共同第3相試験として科学的に評価することを目的に行われました。
【方法】
本試験は国内複数施設で実施されたオープンラベル、非対照、単一群の第3相試験です。29名の日本人患者が参加し、平均年齢は約65歳、約9割が女性でした。既にボツリヌス毒素治療歴のある患者には50~100単位、未治療の患者には50単位を初回投与し、その後は6週間以上の間隔を空けながら最大100単位まで調整し、48週間にわたり繰り返し注射しました。効果判定にはヤンコヴィック評価尺度(JRS)を用い、重症度の変化を評価しました。
【結果】
主要評価項目である初回注射6週間後のJRS重症度スコアは平均で2点以上改善し、あらかじめ設定された有効性基準を十分に満たしました。その後の48週間の経過観察においても、重症度や発作頻度、生活への支障度は改善を維持し、繰り返し投与による持続的効果が確認されました。副作用は約65%にみられましたが、最も多かったのは軽度のまぶた下垂(約14%)でした。重篤な副作用は報告されず、新たな安全性上の懸念も認められませんでした。
【結論】
インコボツリヌムトキシンAは、日本人の眼瞼痙攣患者において有効かつ安全に使用できる治療薬であり、少なくとも1年間にわたり効果が持続することが示されました。世界の第3相試験結果とも一致しており、日本の臨床現場でも十分に実用的な選択肢となり得ると考えられます。
本論文には、自由ヶ丘清澤眼科クリニックの清澤も共著者として参加しております。インコボツリヌムトキシンAは、従来広く用いられているグラクソ社製品と治療効果の点では同等とされていますが、不要なたんぱく成分を除去した高精製製剤であり、免疫原性が低い設計になっています。臨床現場での使用経験からも、より洗練された製剤であり、今後日本でも有用な選択肢として広がっていく可能性が高いと共著者の一人として期待しております。
【出典】
Goseki T, Mochizuki Y, Masuda A, Kiyosawa M, et al. Efficacy and Safety of IncobotulinumtoxinA in the Treatment of Blepharospasm: A Multicenter Phase 3 Study in Japan. Toxins. 2026;18(2):109. doi:10.3390/toxins18020109



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