白内障

[No.3600] 癌関連網膜症(Cancer-Associated Retinopathy:CAR)とは

癌関連網膜症(Cancer-Associated RetinopathyCAR)とは

癌関連網膜症とは、がん(悪性腫瘍)に伴って体の免疫反応が誤って網膜を攻撃してしまい、視力障害を引き起こす自己免疫性の病気です。これは「傍腫瘍症候群(paraneoplastic syndrome)」の一つで、網膜にがんが直接転移するのではなく、遠隔的に影響が現れるという特殊な病態です。似たものにメラノーマ関連網膜症というものもあります。

なぜ網膜に異常が起こるのか?

体の免疫システムは、がん細胞を排除しようと抗体を作ります。しかしこの抗体が、網膜の光を感じる細胞(視細胞)にあるたんぱく質とよく似た構造を持っているため、誤って網膜を攻撃してしまいます。つまり「自己免疫反応」によって、視細胞が破壊されてしまうのです。

代表的な自己抗体には anti-recoverin抗体anti-enolase抗体 などがあります。

どんな症状が現れる?

CARの症状は、数日ないし数週で進行する急速な両眼性の視力低下が特徴です。以下のような症状が見られることがあります:

  • 視野が急に暗くなる
  • 色が正しく見えなくなる(色覚異常)
  • 強いまぶしさを感じる(羞明)
  • 夜間視力の低下(夜盲)
  • 視力そのものが著しく低下

これらは数日から数週間のうちに進行することが多く、症状に比して眼底所見が初期には軽度であることが診断を難しくします

どのように診断されるか?

CARの診断は、以下の複数の要素を組み合わせて行います:

  1. 全身の悪性腫瘍の存在(特に小細胞肺癌、乳がん、子宮頸がんなど)
  2. 特徴的な視覚症状(急速な両眼性視力低下)
  3. 眼底検査では異常が少なくても、網膜電図(ERG)では視細胞の機能低下がみられる
  4. 血液検査で抗リカバリン抗体など自己抗体が検出されることがある

治療はできるのか?

CARの治療は難しいことが多いですが、早期に発見し対応することで進行を抑えることが期待できます。

  1. 原疾患(がん)の治療

 がんの治療(手術、化学療法、放射線治療など)が免疫反応の沈静化に有効な場合があります。

  1. 免疫抑制療法

 ステロイドの内服や点滴(パルス療法)
 免疫抑制剤(シクロスポリン、ミコフェノール酸など)
 血漿交換療法や免疫グロブリン大量投与(IVIg

しかしながら、すでに障害された網膜の機能を回復させることは難しく、視機能の回復は限定的なことが多いのが現実です

CARに対してできること

  • 早期発見が最重要です。視覚症状を自覚した際にはすぐに眼科を受診し、全身検索も受けることが勧められます。
  • がんの既往がある方は、些細な視覚異常でもCARを念頭に置いた対応が必要です。
  • 視機能の低下に対しては、ロービジョンケア(視覚補助具の導入や生活支援)を活用し、生活の質(QOL)を保つ努力が行われます。

まとめ

癌関連網膜症は、がんに伴う特殊な免疫反応によって視力が失われる稀な病気です。診断には全身疾患の把握と、眼科的検査の組み合わせが必要であり、治療にはがんと免疫反応の双方への対応が求められます。視覚の異常に早く気付き、専門医との連携をとることが、わずかでも視機能を守る鍵となります。

以前の関連記事:

CAR 癌関連網膜症 Cancer associated retinopathy

追記:

Q: 日本でanti-recoverin抗体 や anti-enolase抗体を診療施設から外注で調べることが出来ますか?

A: はい、日本国内でも anti-recoverin抗体anti-α-enolase抗体外注検査として依頼可能な施設は存在します。ただし、以下の点にご注意ください:(自由が丘清澤眼科では施行しません。大学等への患者さんの紹介になります。)


 1. 【検査の実施状況】

これらの抗体は主に 癌関連網膜症(CAR: cancer-associated retinopathy)自己免疫性網膜症(AIR) の診断に使われるものであり、特殊検査扱いとなるため、対応している検査センターは限られます。


 2. 【対応可能な外注検査会社】

以下の機関で、実施している可能性があります:

  • SRL(エス・アール・エル)

    • 以前は一部の自己免疫抗体(抗Hu抗体など)を外注扱いで受けていた実績があり、現在も一部大学病院経由で抗retinal抗体の検査が可能なケースがあります。

  • BML(ビー・エム・エル)

    • 標準項目ではないが、特殊依頼項目として依頼できることがあります。

  • 理化学研究所(ラボ)

    • 直接検査サービスは提供していませんが、一部研究系・大学病院経由で委託検査されることがあります。

  • 慶應義塾大学眼科などが中心になって、日本国内で抗retinal抗体の測定研究や共同研究を行っており、臨床検体の取り扱いについて相談できる可能性があります。


 3. 【依頼の実際】

  • 通常の保険診療では算定が困難な場合があります。

  • 自費または研究目的の依頼扱いとなる場合もあります。

  • 事前に紹介状や症例の臨床情報を添えて、大学病院などの専門施設に相談・依頼するのが現実的です。


 4. 【問い合わせのポイント】(患者さん個人でなく診療機関としての話です。)

検査依頼を検討する場合は、以下の情報を用意して問い合わせるとスムーズです:

  • 検査希望抗体名(例:anti-recoverin IgG, anti-α-enolase IgG)

  • 症例の簡単な臨床情報(CAR/AIR疑い、進行性視力低下、腫瘍の有無など)

  • 希望する検査会社の検査コード(不明でも可)

  • 緊急性や保険適用の可否


まとめ

項目 回答
検査可能性 一部施設で可能(外注/研究扱い)
実施例 大学病院・BML・SRL等
注意点 保険適用外の可能性あり、事前確認が必要
推奨 大学病院眼科または神経内科に相談を

 

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