癌関連網膜症(Cancer-Associated Retinopathy:CAR)とは
癌関連網膜症とは、がん(悪性腫瘍)に伴って体の免疫反応が誤って網膜を攻撃してしまい、視力障害を引き起こす自己免疫性の病気です。これは「傍腫瘍症候群(paraneoplastic syndrome)」の一つで、網膜にがんが直接転移するのではなく、遠隔的に影響が現れるという特殊な病態です。似たものにメラノーマ関連網膜症というものもあります。
なぜ網膜に異常が起こるのか?
体の免疫システムは、がん細胞を排除しようと抗体を作ります。しかしこの抗体が、網膜の光を感じる細胞(視細胞)にあるたんぱく質とよく似た構造を持っているため、誤って網膜を攻撃してしまいます。つまり「自己免疫反応」によって、視細胞が破壊されてしまうのです。
代表的な自己抗体には anti-recoverin抗体 や anti-enolase抗体 などがあります。
どんな症状が現れる?
CARの症状は、数日ないし数週で進行する急速な両眼性の視力低下が特徴です。以下のような症状が見られることがあります:
- 視野が急に暗くなる
- 色が正しく見えなくなる(色覚異常)
- 強いまぶしさを感じる(羞明)
- 夜間視力の低下(夜盲)
- 視力そのものが著しく低下
これらは数日から数週間のうちに進行することが多く、症状に比して眼底所見が初期には軽度であることが診断を難しくします。
どのように診断されるか?
CARの診断は、以下の複数の要素を組み合わせて行います:
- 全身の悪性腫瘍の存在(特に小細胞肺癌、乳がん、子宮頸がんなど)
- 特徴的な視覚症状(急速な両眼性視力低下)
- 眼底検査では異常が少なくても、網膜電図(ERG)では視細胞の機能低下がみられる
- 血液検査で抗リカバリン抗体など自己抗体が検出されることがある
治療はできるのか?
CARの治療は難しいことが多いですが、早期に発見し対応することで進行を抑えることが期待できます。
- 原疾患(がん)の治療
がんの治療(手術、化学療法、放射線治療など)が免疫反応の沈静化に有効な場合があります。
- 免疫抑制療法
– ステロイドの内服や点滴(パルス療法)
– 免疫抑制剤(シクロスポリン、ミコフェノール酸など)
– 血漿交換療法や免疫グロブリン大量投与(IVIg)
しかしながら、すでに障害された網膜の機能を回復させることは難しく、視機能の回復は限定的なことが多いのが現実です。
CARに対してできること
- 早期発見が最重要です。視覚症状を自覚した際にはすぐに眼科を受診し、全身検索も受けることが勧められます。
- がんの既往がある方は、些細な視覚異常でもCARを念頭に置いた対応が必要です。
- 視機能の低下に対しては、ロービジョンケア(視覚補助具の導入や生活支援)を活用し、生活の質(QOL)を保つ努力が行われます。
まとめ
癌関連網膜症は、がんに伴う特殊な免疫反応によって視力が失われる稀な病気です。診断には全身疾患の把握と、眼科的検査の組み合わせが必要であり、治療にはがんと免疫反応の双方への対応が求められます。視覚の異常に早く気付き、専門医との連携をとることが、わずかでも視機能を守る鍵となります。
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