私の身内でもこの疾患で生き残っている患者のいる卵巣がんに対するJAMAの総説をいつもの通り星進悦先生が教えてくれたので読み下して紹介します。
卵巣がんの予防と早期発見 ― 個別化された新しいアプローチ
卵巣がんは、女性のがんの中でも特に致死率が高い病気です。その理由の一つは、がんが卵管の先端部分から発生しやすく、腹腔内に直接がん細胞をまき散らしやすいという特徴にあります。さらに代表的な「高グレード漿液性卵巣がん」は非常に早く進行し、腫瘍の大きさが約3か月ごとに倍増すると言われています。そのため、患者さんの多くはすでに進行期(III期やIV期)になってから診断され、5年以上生存できる方は3割程度にとどまります。
スクリーニング(集団検診)の限界
1990年代以降、卵巣がんを早期に発見するための大規模な検診研究がアメリカとイギリスで行われました。方法は血液中のCA-125という腫瘍マーカーの測定や経腟超音波検査(TVUS)です。しかし、いずれも死亡率を下げる効果は示されませんでした。CA-125を単独で使っても、またTVUSのみを毎年行っても、がんの早期発見には結びつかなかったのです。
一部の方法では早期発見が増える傾向がありましたが、実際に命を救うまでには至りませんでした。さらに、偽陽性(がんではないのに「疑い」と判定されること)が多く、4人に1人が不要な手術を受けてしまうリスクもありました。このため、一般女性を対象にした集団スクリーニングは現実的ではないとされています。
血液検査や新技術への期待と課題
近年は、血液中のDNAや特異的タンパク質を調べる新しい検査が研究されています。その一つに「Galleri(ギャレリ)」という多がん早期検出検査があります。これにより卵巣がんの早期例をある程度見つけることはできますが、まだ小規模研究が中心で、普及には至っていません。
卵巣がんの腫瘍は急速に大きくなるため、3〜4か月ごとの頻回検査でないと間に合わない可能性もあり、年1回程度のスクリーニングでは限界があると考えられています。
高リスク女性への個別対応
一方で、遺伝的にリスクが高い女性(たとえばBRCA1やBRCA2遺伝子の変異を持つ方)では、定期的にCA-125とTVUSを組み合わせた検診を行うと、約半数のケースが早期に診断されるという成果が出ています。また、手術で取り残す病変が少なくなるという利点も報告されています。死亡率を確実に下げるところまでは証明されていませんが、高リスク群への集中予防は有効な方向性といえます。
一次予防(発症そのものを防ぐ工夫)
卵巣がんそのものの発症を減らす工夫も研究されています。たとえば、
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経口避妊薬の使用により排卵回数を減らすこと
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乳がんリスクも下げる可能性のあるホルモン薬の活用
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高リスク女性に対する「卵管だけを予防的に切除し、卵巣は温存する手術」
これらはまだ一般女性全体に広く推奨される段階ではありませんが、個人のリスクに応じて適用されれば、発症率を大きく下げる可能性があります。
リスクに基づいた予防へ
卵巣がんの患者さんのうち、BRCA変異を持つ方は1割程度にすぎません。多くは既知のリスク因子を持たない女性に発生します。そのため、今後は遺伝要因・生活習慣・ホルモン環境などを組み合わせて、より精度の高いリスク予測ツールを開発し、リスクの高い人にだけ集中的に予防や検診を行う「個別化予防」が重要になると考えられています。
有力な新しい研究として、子宮頸がん検診で採取した細胞を利用して卵巣がんリスクを評価する方法も検討されています。これにより、痛みのない方法でリスクを早期に見極められる可能性があります。
まとめ
卵巣がんは、早期発見が難しく、進行してから見つかることが多い厄介な病気です。これまでの集団検診では死亡率を下げる効果は証明されず、不要な手術のリスクが問題となってきました。今後は、遺伝子検査や血液検査などの新しい技術を活用しつつ、特にリスクの高い人を対象にした「個別化された予防と早期発見」が主流になると考えられています。一般の方にとっては、家族に卵巣がんや乳がんの方がいる場合や遺伝子変異の可能性がある場合には、専門医に相談して検査や予防の選択肢を検討することが大切です。
出典
Personalized Primary and Secondary Prevention in Ovarian Cancer. JAMA. 2025.
https://jamanetwork.com/
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