流行性角結膜炎後の瀰漫性表層角膜炎について
背景
流行性角結膜炎(epidemic keratoconjunctivitis, EKC)はアデノウイルスによる強い結膜炎で、感染初期の充血や流涙が落ち着いた後に、角膜に「瀰漫性表層角膜炎(diffuse superficial keratitis)」が残ることがあります。これは、ウイルス自体による直接障害というよりも、免疫反応に起因する角膜上皮下の炎症反応で、視機能や生活の質に影響を及ぼします。
症状
瀰漫性表層角膜炎では、急性期の強い痛みや発熱は落ち着いていますが、以下の症状がしばしば残ります。
- かすみ目(視力低下):角膜の濁りにより、細かい文字が読みづらくなります。
- 羞明(まぶしさ):光が散乱して、日常生活で強い不快感を感じやすくなります。
- 異物感・乾燥感:角膜表層の炎症により、眼が乾きやすく、ごろごろ感が残ることがあります。
- 視力変動:時間帯や環境によって視力の良し悪しが変わりやすいのも特徴です。
所見
眼科での診察では以下のような所見が確認されます。
- 角膜上皮下混濁(subepithelial infiltrates)
点状あるいは斑状の白濁が角膜中央から周辺にかけて散在します。これが光の散乱や視力低下の主因となります。 - 角膜上皮自体は比較的平滑
上皮剥離などの急性病変は治まっており、混濁は主に上皮下に存在します。 - 蛍光色素染色では異常が目立たない
上皮障害が軽減しているため、フルオレセイン染色では著明な染まりを示さないことが多いです。 - 慢性期に残存する濁り
数か月〜1年単位で遷延し、徐々に減少するものの完全には消えない場合があります。
対応
瀰漫性表層角膜炎の治療は「炎症のコントロール」と「視機能の改善」が目的です。以下の方法が一般的です。
- ステロイド点眼
- フルオロメトロンやロテプレドノールなどの弱〜中等度のステロイド点眼薬を用います。
- 炎症を鎮めて混濁の軽減を図ります。
- ただし、緑内障や白内障などステロイド副作用への注意が必要で、眼圧測定を並行して行います。
- 免疫抑制薬点眼(必要に応じて)
- ステロイドで十分に抑えられない場合や長期投与が難しい場合、タクロリムスやシクロスポリンの点眼を用いることがあります。
- 免疫反応を調整することで、角膜混濁の再燃を抑制します。
- ドライアイ対策
- 人工涙液やヒアルロン酸点眼により角膜表面を保護します。
- 特に羞明や異物感の軽減に有効です。
- 生活指導
- 紫外線で症状が悪化することがあるため、サングラスの使用を推奨します。
- 視力低下が強い場合は、学業や仕事上の配慮が必要です。
- 経過観察
- 多くは数か月から1年程度で自然軽快しますが、濁りが完全に消えず、わずかな視機能障害が残ることもあります。
- 再燃することもあるため、数週間〜数か月ごとの定期的な診察が重要です。
まとめ
流行性角結膜炎の後に残る瀰漫性表層角膜炎は、免疫反応に伴う角膜上皮下混濁が原因で、視力低下や羞明を引き起こします。診察では点状の角膜混濁が確認され、上皮自体は比較的正常に保たれています。治療は主に弱いステロイド点眼や免疫抑制薬点眼によって炎症を抑え、人工涙液などで角膜を保護することが中心です。経過は長期にわたるものの、時間とともに改善していく傾向があります。患者さんにとっては症状の長さが不安要素となるため、「完全に消えるには時間がかかるが、徐々に軽快する」ことを説明し、適切な経過観察と安心感を与えることが大切です。
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