白内障

[No.3958] ビジュアルスノウ症候群とシエラ・ドム氏の挑戦:記事紹介

ビジュアルスノウ症候群とシエラ・ドム氏の挑戦

―患者自身が立ち上げた国際的な取り組み―

米国ロサンゼルスの雑誌 VoyageLA は、ビジュアルスノウ・イニシアチブ(Visual Snow Initiative, VSI)の創設者である シエラ・ドム(Sierra Domb)氏 にインタビューを行いました。彼女自身がビジュアルスノウ症候群(Visual Snow Syndrome: VSS)を発症した経験を基盤に、患者支援と研究推進に尽力する姿が紹介されています。本記事では、その要点を一般の方にも分かりやすく整理します。


① 幼少期からの闘病と青春時代

シエラ氏は幼い頃から 自己免疫異常(Autoimmune Dysregulation: AD)赤痛症(Erythromelalgia: EM) に苦しんでいました。副腎皮質ステロイド薬や生活習慣の工夫によりある程度コントロールできていましたが、学生時代は通院や慢性的な痛みで学業や友人関係にも制限がありました。それでも懸命に学業と生活を両立しようと努めていたといいます。


② 大学進学と突然のVSS発症

大学入学後、人生が前向きに開けてきた矢先の 2015年、21歳の時にVSSを発症。最初は軽い症状でしたが、その日のうちに急速に進行し、車の運転中に視界が一瞬真っ暗になる体験をします。

その後、彼女は以下のような症状に苦しみました:

  • 視界に常にちらつきや光の点が見える

  • 二重像や歪みなどの視覚異常

  • 耳鳴り、感覚異常、現実感の喪失

  • 記憶の曖昧化、慢性頭痛、不安感

医師たちはこの病気を知らず、誤診が相次ぎ「失明する」「命に関わる病気では」と告げられたこともあったそうです。中には心因性と決めつける医師もおり、彼女は孤立感と恐怖に追い込まれました。


③ 専門家との出会いと診断確定

転機となったのは、ピーター・ゴーズビー教授(Dr. Peter Goadsby, 神経科学者でBrain Prize受賞者) の論文に出会ったことでした。そこには自身の症状が正確に記されており、直接連絡を取ったことで正式に「ビジュアルスノウ症候群」と診断を受けました。

ゴーズビー教授は「VSSは世界中に多くの患者がいるが、研究者は極めて少なく、資金不足で進展が停滞している」と説明しました。この現実を知ったシエラ氏は、絶望を力に変えて行動を始めます。


④ ビジュアルスノウ・イニシアチブの設立

2018年、わずか23歳で彼女は サンフランシスコのUCSFで世界初のVSS国際会議 を開催。同時に 非営利団体「Visual Snow Initiative (VSI)」 を設立しました。

この団体は以下を目的としています:

  • VSSの認知度を高める

  • 医師・研究者への教育を広める

  • 科学的な研究を推進する

  • 患者支援と国際的な連携を進める

資金や経験もない中での挑戦でしたが、「自分と同じように苦しむ人のために道を拓きたい」という思いが原動力でした。


⑤ 活動の広がりと成果

VSIはこれまでに 7か国での研究支援 を実現し、世界中の医師・研究者と協力体制を築いてきました。また、教育リソースを公開することで、患者と家族が正しい情報にアクセスできる環境を整備。

さらに、世界93か国から患者が集まり、孤立感から解放された という声も届いています。彼女にとってそれは、活動を続ける最大の励みとなりました。


⑥ 哲学とメッセージ

シエラ氏は「すべての痛みには意味があるわけではない。時にただ生き延びること自体が精一杯」としながらも、「小さな希望を見出し、人を助けることが自分を支える」と語ります。

彼女は「科学的根拠と共感を両立させる姿勢」が大切であり、無理解には教育と共感で応えることを信条としています。


出典

VoyageLA Magazine: Life, Work, & Health with Sierra Domb(2025年)

Visual Snow Initiative 公式サイト


清澤のコメント

ビジュアルスノウ症候群は、日本でも若い世代を中心に患者さんが少なくありません。しかし、医師の間でも十分な理解が浸透していないのが現状です。シエラ氏のように患者自身が声を上げ、研究と社会的認知を進めることは非常に意義深いと感じます。当院でもこの疾患に悩む方がおり、正しい知識の普及と研究の進展を期待したいと思います。この記事では、シエラドムさんを崇拝したいという訳ではありません。

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