白内障手術のあとに見える「光の不思議」 ― 視覚陽性現象と視覚陰性現象とは?
白内障手術を受けたあと、「視界が明るくなってよく見えるようになった」という嬉しい声が多く聞かれます。一方で、「目の端に光がちらつく」「黒い影が動く」「何かがキラッと光る」など、不思議な見え方を訴える方も少なくありません。これらは多くの場合、術後の視覚陽性現象(positive visual phenomena)または視覚陰性現象(negative visual phenomena)と呼ばれるものです。今回はその違いや原因、経過についてわかりやすく説明します。
1. 視覚陽性現象 ― 「光が見える」タイプの訴え
視覚陽性現象とは、本来そこにない光や形が「見える」現象です。白内障手術のあとに多いものとして、次のような症状があります。
-
眼の端に光の線が走る(“ピンボケのような光”や“きらめき”)
-
**反射や光の輪(ハロー)が夜間に見える
-
まぶしさが増す
-
自分のレンズの縁が見えるような感覚
これらの多くは、「眼内レンズ(IOL)」の縁で光が反射・屈折して生じる現象で、特に透明度の高いアクリル素材のレンズでよく見られます。この光の反射は「dysphotopsia(ディスフォトプシア)」と呼ばれ、
-
明るい環境で横から光が入るとき
-
夜間の対向車のライトを見たとき
などに目立ちます。
また、眼球の中で光が網膜の端(周辺網膜)に当たると、そこが刺激されて「光が走ったように」感じることもあります。これは網膜への物理的刺激による一過性の現象で、多くは数週間から数か月で慣れていきます。
2. 視覚陰性現象 ― 「影が見える」タイプの訴え
これに対して、視覚陰性現象とは「光が見えない」「一部が欠ける」「影が見える」といった現象を指します。代表的なのが**術後暗点(negative dysphotopsia)**です。
患者さんは、「目の端に黒い影がある」「右(左)の端が暗い」「視野が一部欠けて見える」と訴えます。視力検査では異常がなくても、自覚的にはとても不快な症状です。
原因として考えられているのは:
-
眼内レンズの前面と後嚢(レンズを支える膜)との間にできる光の境界
-
光がレンズの縁を通らず網膜に届かない領域の存在
など、光の経路と眼内レンズの設計に関連しています。特に角膜とIOLの位置関係や虹彩(ひとみの縁)の形状が影響しやすく、左眼にのみ症状が出ることもあります。
幸い、多くの患者さんでは時間の経過とともに脳が順応し、影が気にならなくなる傾向があります。もし長期間続く場合には、レンズの交換(前方への移動や種類変更)などで改善する例もありますが、手術を追加するのは慎重に判断する必要があります。
3. 網膜や硝子体の異常による光視症との鑑別
白内障手術後の「光が走る」「チカチカする」という訴えの中には、網膜剥離の前兆である光視症が隠れている場合もあります。特に、
-
飛蚊症(黒い点や糸のようなものが増えた)
-
強い閃光感(ピカッと光る)
を伴う場合は、硝子体の収縮によって網膜が引っ張られている可能性があり、早急な眼底検査が必要です。
術後の単なる光の反射と区別するには、散瞳検査(瞳を広げての眼底精査)が欠かせません。
4. 安心して回復を待つために
白内障手術後に起こる多くの視覚陽性・陰性現象は、時間とともに軽くなります。光の入り方や眼内レンズの位置に脳が順応してくるため、ほとんどの方では3〜6か月のうちに気にならなくなります。
ただし、次のような場合は早めの再診をおすすめします:
-
光が突然強くなった、数が増えた
-
視野の一部が黒く見える
-
飛蚊症が急に増えた
-
視力が急に落ちた
これらは網膜剥離や黄斑疾患の初期サインであることがあるため、「いつもと違う光の感じ方」には早めの受診が大切です。
まとめ
白内障手術後の見え方の変化には、光が「見える」視覚陽性現象と、「欠けて見える」視覚陰性現象の2種類があります。
多くは眼内レンズと光の関係によって起こる一時的なものですが、まれに網膜の病気が関係していることもあります。
不安なときは自己判断せず、手術を受けた眼科で相談してください。
コメント