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[No.4102] トイレ修理から学ぶ「洞察の力」:

トイレ修理から学ぶ「洞察の力」

当院のトイレは、開院時(約4年前)に設置したパナソニック製の最新型です。患者さんにも快適に使っていただけるよう、清潔感と使いやすさに高級時計と宝石を扱う一誠堂の店舗設計デザイナー氏はこだわってくれました。使用者が入室すると自動的にフタが開き、使用には自動で洗剤も出て洗浄・蓋も閉鎖されるタイプで、清潔面でも評判の良い上級機種です。

ところが先日、このトイレにちょっとしたトラブルが発生しました。温水洗浄便座(いわゆる「ウォシュレット」)のビデ機能は正常に作動するのに、なぜかウォシュレット機能だけがまったく反応しなくなったのです。電源を切っても、水圧を調整しても、変化なし。患者さんにご迷惑がかからないようにと、メーカーに修理を依頼しました。

プロの目が光る ― 一瞬で原因を見抜く力

来訪したパナソニックの修理担当の方は、落ち着いた態度でまず現象を確認。操作音や水の反応を一度チェックしただけで、「給水機構は問題ありません。一穴と4穴の噴水ノズルの切り替えバルブが作動していませんね」と即断されました。つまり、水を送る装置自体は壊れておらず、「どちらのノズルに水を送るか」を切り替える内部の小さな部品が動かなくなっていたのです。

この診断の速さに驚きました。私たち医師が診察で「この症状の原因はここだ」と瞬時に見抜くのと同じように、熟練の修理技師にも経験と観察力に裏打ちされた洞察力があるのです。担当者は20分ほどで部品交換を完了し、その場で正常動作を確認。まさにプロフェッショナルの仕事でした。

医療と修理 ― 共通する“診断力”

医療の現場も機械の修理も、根本は「問題の原因を正確に突き止めること」です。症状だけを見て闇雲に手を加えるのではなく、「なぜこの部分が動かないのか」を冷静に分析する必要があります。

たとえば、患者さんが「かすんで見える」と訴えた場合でも、ドライアイ、白内障、眼鏡不適合、糖尿病網膜症など、原因はさまざまです。表面的な現象に惑わされず、本質にたどり着くためには、経験に基づいた仮説と、それを検証する観察力が不可欠です。

今回の修理担当者のように、「見た瞬間に当たりをつけ、必要最小限の処置で問題を解決する」という姿勢は、医師にとっても大切な学びでした。

技術の進化と人の力

トイレの世界でも、AIやセンサー制御による高度な自動化が進んでいます。しかし、いかに技術が進んでも、最終的に問題を見抜き、解決するのは「人の洞察力」です。

これは医療でもまったく同じです。AIが病気を見つける時代になっても、「患者さんの訴えを聞き、生活背景を踏まえ、治療の方向性を決める」のは人間の役割です。機械ができない“共感と判断”の部分が、今後も医療の核心であり続けるでしょう。

修理を通して感じたこと

今回、修理を終えた担当者が一言、「このトイレは上位機種ですね。設置当初から大切に使われていますね」と言ってくれました。自院の設備をほめられるのは、少し誇らしい瞬間でした。同時に、「どんな機械でも、使い方と日々の手入れが寿命を左右する」という言葉の重みも感じました。

医療機器も同じです。最新の検査装置や手術機器も、日々の点検と丁寧な扱いが安全な診療を支えています。機械も人間も、日常のケアが大切なのです。

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清澤のコメント

トイレの修理という一見小さな出来事にも、「診断力」「洞察」「経験に基づく判断」という医療の本質と通じるものがありました。日常の中にこそ、学びの種はあるのだと改めて感じます。

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