米国で急増する「神経疾患の負担」― JAMA Neurology が示す最新データから ―記事紹介
私の専門とする分野は眼科の中でも神経眼科で、神経内科と眼科の間をつなぐような分野です。今回のJAMA神経学にこのような記事がありましたので、その神経疾患には何が多いのかをご覧ください。総DALYsで多い疾患は・緊張型頭痛・片頭痛・糖尿病性神経障害であり、社会全体の健康損失（DALYs）を最も増大させた神経疾患は、・脳卒中・アルツハイマー病・認知症・糖尿病性神経障害・片頭痛だったそうです。
1. 背景
脳や脊髄、末梢神経の健康は、人の生活の質、仕事への参加、人間関係に大きく影響します。乳児期には先天性疾患が、青年期には片頭痛・てんかんが、中高年では脳卒中や認知症が、それぞれ日常生活機能を損なう原因となります。
近年、世界的に人口の高齢化が進み、神経疾患による健康損失（障害や死亡）は増大しています。こうした中で、米国の国民が「どれほど神経疾患の影響を受けているのか」を包括的に示すデータは限られていました。
2. 目的
本研究の目的は、米国における神経系疾患全体の健康損失を、年齢や疾患の種類を超えて総量的に評価することにあります。対象となった疾患は、脳卒中や認知症などの成人疾患だけでなく、先天性疾患、神経発達障害、新生児疾患、感染症、糖尿病性神経障害など幅広い36疾患です。
3. 方法
研究は、世界的に使用される Global Burden of Disease（GBD）2021 の大規模データを用いた横断的解析です。
対象は 1990〜2021年の米国全人口（約3億3,270万人） で、
・障害調整生涯年数（DALYs）
・障害と共に生きた年数（YLD）
・早期死亡による年数（YLL）
・死亡数
・有病率
などを年齢標準化して算出しました。
4. 結果
2021年時点で、1億8,030万人（人口の54％）が神経系に影響する疾患を抱えていました。これは米国で最も大きい分類の健康障害の原因であり、総DALYsは 1,660万年 に達しました。
特に多い疾患は次の通りです。
・緊張型頭痛：1億2,199万人
・片頭痛：5,770万人
・糖尿病性神経障害：1,710万人
社会全体の健康損失（DALYs）を最も増大させた疾患は、
・脳卒中：390万DALYs
・アルツハイマー病・認知症：330万DALYs
・糖尿病性神経障害：220万DALYs
・片頭痛：210万DALYs
1990年と比較すると、
・神経疾患の有病率：横ばい（−0.2%）
・死亡数：14.6%減少
・障害と共に生きる年数（YLD）：9.8%増加
つまり、医療の進歩で「死ぬ人は減った」が、「障害を抱えながら生活する人」はむしろ増えている状況が確認されました。
州別では、ミシシッピ、アラバマ、ルイジアナが最もDALY率が高く、
ニューヨーク、マサチューセッツ、ニュージャージーが最も低いという地理的格差も示されました。
5. 結論
神経系疾患は米国で極めて大きな負担をもたらしており、今後も増加することが予想されます。死亡率は減少した一方で、障害を抱える期間が長期化していることから、
・早期予防
・より効果的な治療法
・リハビリテーションの充実
が国全体の課題として示されました。
米国は神経疾患への政策的投資を強化し、国民の生涯にわたる神経系健康を守る必要があります。
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出典
Nay JP, Steinmetz JD, Benzie EA, et al.
Burden of Disorders Affecting the Nervous System in the US, From the Global Burden of Disease 2021 Study.
JAMA Neurology. Published online November 24, 2025.
doi:10.1001/jamaneurol.2025.4470
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清澤のコメント
神経疾患は「高齢者だけの問題」と誤解されがちですが、この研究が示すように、片頭痛や頭痛など働き盛り世代にも広く影響し、社会全体で非常に大きな負担となっています。特に死亡は減ったにもかかわらず、障害を抱え続ける人が増えている点は重要です。医療の役割は、単に命を守るだけでなく、生活の質を保ち続けることにあるということを再認識させられます。日本でも高齢化が進む中で同様の課題が拡大しており、予防・治療・リハビリの総合的な体制づくりが求められています。
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