白内障

[No.4289] 細菌性角膜炎に最も多く使われる抗生剤点眼のパターンは?

細菌性角膜炎の初期治療としてはフルオロキノロン単剤(日本ではベガモックス、クラビット、ガチフロキサシンなど)が圧倒的に選ばれており、ガイドライン推奨のセファゾリン併用療法(日本ではセファメジン調剤)はほとんど使われていないことが示された。現在私が処方することの多い、クラビットやガチフロキサシンの選択でも最初はよさそうです。

細菌性角膜炎は、コンタクトレンズ使用者にも起こりやすく、進行が早いと失明の危険もある重い感染症です。治療では最初にどの抗菌薬を使うかが極めて重要ですが、実際に医療現場でどの薬が使われているのか、大規模データに基づいた報告は限られてきました。今回、米国から、約1億2000万人をカバーするデータベースを用いて「細菌性角膜炎に対し、どの抗生物質が第一選択薬として使われているのか」を調べた新しい研究が報告されました。患者さんにも知っておいていただきたい重要な内容ですので、わかりやすく紹介します。

目的

この研究の目的は、細菌性角膜炎に対して、医師が「最初にどの抗菌薬を処方しているのか」を実際の医療データから明らかにすることです。米国眼科学会(AAO)のガイドラインでは、

  • フルオロキノロン単剤療法(日本ではベガモックス点眼液〈モキシフロキサシン〉、クラビット点眼液〈レボフロキサシン〉など)

  • またはセファゾリンとトブラマイシンの併用療法(日本では注射用セファメジン〈セファゾリン〉を院内調整し、トブラシン点眼液〈トブラマイシン〉と併用)が推奨されています。

    しかし、現場の処方実態は必ずしもガイドラインと一致しないことが予想され、抗生物質耐性の増加も考えると、最新の実態を把握することは大変重要です。

方法

研究では、米国医療データネットワーク「TriNetX」を用い、2005〜2024年に細菌性角膜炎と診断された成人患者を解析しました。初診から1日以内に眼科を受診し、1日以内に抗菌薬治療を開始した患者が対象です。過去1週間以内の抗菌薬使用者は除外し、今回の角膜炎が確実に対象となるようにしました。

第一選択薬は「診断後1日以内に開始された点眼抗菌薬」と定義し、どの薬剤がどれだけ使われているかを評価しました。

結果

対象は5,916人、平均年齢は49歳でした。最も多く使用されたのはフルオロキノロン系抗菌薬で、全体の73%がこれを第一選択として受けていました。特に多かったのは

  • モキシフロキサシン単剤(日本名:ベガモックス点眼液)39.7%

    でした。

その他の使用薬剤の傾向は次の通りです。

  • アミノグリコシド系(日本名:トブラシン点眼液など)21.9%:多くは併用療法

  • マクロライド系(日本名:エリスロマイシン点眼液等)15.1%:フルオロキノロンとの併用が多い

一方で、ガイドラインで推奨されるセファゾリン(日本では市販点眼なし。注射用セファメジンを院内調剤して使用)は、0.6%と極めて少数でした。

また、重症例で用いられるバンコマイシン(日本では院内調剤の強化点眼として使用)は年々増加し、2024年には処方の約20%を占めました。しかしバンコマイシンは角膜上皮に毒性があり、殺菌速度も速くないため「最初に広く使う薬」としては必ずしも理想ではありません。

治療変更の割合を見ると、

  • バンコマイシン+トブラマイシン併用療法(日本では院内調整バンコマイシン+トブラシン)では50%が後に別薬へ変更

  • モキシフロキサシン単剤(ベガモックス)は20.7%のみ変更

    であり、初期治療の安定性の面でフルオロキノロンが支持されていることが示されました。

結論

米国の大規模データ分析により、細菌性角膜炎の初期治療としてはフルオロキノロン単剤(日本ではベガモックス、クラビット、ガチフロキサシンなど)が圧倒的に選ばれており、ガイドライン推奨のセファゾリン併用療法(日本ではセファメジン調剤)はほとんど使われていないことが示されました。

コンタクトレンズを使用している方は、強い痛み、めやに、急な視力低下がある場合にはすぐに眼科を受診してください。早期治療が視力を守る鍵です。また、医師は重症度や背景を慎重に判断しながら薬剤を選択しています。

出典

Hong AT, Lin F, Luu IY, et al. Patterns of First-Line Therapy for Bacterial Keratitis. JAMA Ophthalmol. Published online December 11, 2025. doi:10.1001/jamaophthalmol.2025.5071

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