清澤のコメント:スギ花粉の飛散開始はおよそバレンタインデーの2月中旬。その季節が近づいてきました。このところ、世の中は新型コロナに気を取られて、春の花粉症の事をすっかり忘れている様子ですが、スギ花粉を抗原とする季節性アレルギー性結膜炎に対する治療の初期療法を早々に(即時)始められることをお勧めします。私は基本的には、アレジオンLX一日2回の点眼とアレジオン内服一日一錠、それに希望が有れば点鼻薬(ステロイド)を合わせて処方を好んでいます。若し、かゆみが既に始まってしまっていれば、0.1%フルメトロン(1本のみ)を緊急避難的に追加します。下の記事の通り、アレジオンには抗ヒスタミン効果でかゆみを即時的に抑える効果もありますが、むしろかゆみのカスケードを止める薬ですから、使うべき時期には定時的にお使いになることをお勧めします。点眼薬でも点鼻薬でもステロイドには眼圧を上げ、緑内障を誘発する重大な副作用がありますから、眼科での定期的な通院管理が必要です。下記の記事は女子医大眼科高村教授の講演要旨を参考に抜き出したものです。:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/124/3/124_171/_pdf
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アレルギー性結膜炎に対する初期療法の効果
花粉症では,抗アレルギー点眼薬による初期療法が勧められている。初期療法とは,スギ花粉飛散初期の症状がないか,あってもごく軽度の時期から治療を開始する方法で,その結果,花粉飛散時期の症状の軽減,症状発現期間の短縮が期待できる。抗アレルギー点眼薬は副作用がほとんどないため,初期療法にも用いやすい点眼薬である。最近では,エピナスチン点眼薬による初期療法によって飛散期治療に比べ,スギ花粉飛散期の自覚症状,他覚所見の改善に加え,アレルギー性結膜疾患に関連した生活の支障度が有意に抑制されたことが報告されている。
初期療法の目的
花粉症などのアレルギー炎症の悪化は,抗原暴露により,粘膜の過敏性が亢進することで起こる最小持続炎症(minimal persistent inflammation : MPI)と,いったん発症すると,その後,同程度の症状発現に必要な抗原量が10~100分 の1に 減 少 す る プ ラ イ ム 効 果(priming effect)の関与が考えられている。
花粉飛散初期に,繰り返される低レベルの抗原暴露があると,症状は発現していないが,抗原に対する過敏性が亢進した状態が形成される。実際,鼻粘膜では,症状発現時と同様な炎症細胞の浸潤が始まっていることが報告されている。最小持続炎症の状態が持続する,すなわち過敏性が亢進した状態では,少量の抗原暴露によっても急激に症状が惹起される。そしていったん発症してしまうと,プライム効果により抗原の暴露量が減っても,つまり花粉飛散量が少ない日でも,すぐには炎症が治まらないといった状態に陥ることになる。
抗アレルギー点眼薬は,結膜炎に対し,効果と安全性の点から初期療法に適した治療薬である。花粉飛散開始日前から実際に少量の花粉飛散は始まっていることから,過敏性を亢進させないためには,この時期の最小持続炎症を積極的に治療することを目的に初期療法を勧めている。
点眼遵守状況が眼のかゆみに関連した支障度に与える影響
季節性アレルギー性結膜炎患者では,抗アレルギー点眼薬を,かゆみ止め,といったイメージでとらえ,点眼回数を自己調整している場合も少なくない。実際,眼科で診断され,用法が1日4回のヒスタミン H1 受容体拮抗点眼薬を処方された患者1,008例を対象に,点眼回数やタイミング,症状,アレルギー性結膜炎に関連した生活の支障度などについて Web アンケート調査が行われている。その結果,点眼回数は患者の症状により増減され,シーズン中おおむね1日2,3回,またはかゆい時に点眼している場合が多く,1日4回の用法遵守例は4%だけであった.また,日本アレルギー性結膜疾患標
準 QOL 調査票9)を用いてアレルギー性結膜炎に関連する支障度と点眼の遵守状況との関連を調べた結果では,1日4回,だいたい決まった時間に点眼していた「用法遵守群」では,用法逸脱群に比べ,アレルギー性結膜炎による生活の支障度は低いという結果だった。
現在,1日2回点眼の抗アレルギー点眼薬(清澤注;アレジオンLX)が処方可能となっている.これからは,1日2回であれば,朝,夕と決まった時間に点眼することで,かゆみによる日常生活への影響を最小限におさえられる可能性がでてきた.
ステロイド点眼薬使用の注意点
ステロイド点眼薬の副作用―眼圧上昇―
花粉症の鼻症状に対し,鼻噴霧用ステロイド薬の使用が推奨されているが,結膜炎に対しては,ステロイド点眼薬による副作用を考慮し,必要最小限に用いることを勧めている。
ステロイド点眼薬は,漫然と点眼を続けると眼圧上昇を起こし,緑内障に至る危険な副作用を起こすことがある。眼圧上昇は量依存的であり,全身投与よりも点眼薬や眼軟膏などの局所投与で起こりやすい.その上,ステロイド投与によって眼圧上昇を起こしやすい,ステロイドリスポンダーが存在する。また,ステロイド点眼薬による眼圧上昇の頻度は成人より小児で高い。眼圧が上昇しても自覚症状を伴わないため,眼圧を測定しなければこの副作用は見過ごされてしまう危険がある.低濃度であってもステロイド点眼中は眼圧測定を行うことも含め眼科への定期的な通院が必要である。
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