結膜炎・花粉症・ものもらい (結膜疾患)

[No.3241] 目をこする行為が急性炎症を引き起こす仕組み: 新論文紹介

昭和大学の研究グループが、目をこする行為が急性炎症を引き起こす仕組みを解明しました。この発見は、目をこすることが単なる物理的刺激ではなく、炎症を引き起こすリスクがあることを示しています。

 202519日(オンライン掲載日、20254月号掲載)・原著:DOI 10.1016/j.jtos.2025.01.001

研究の背景と目的

目がかゆいときや疲れたときに目をこする行為は、日常的な動作ですが、私たちは子どもの頃から「目をこすってはいけない」と言われてきました。その理由としては、指からの細菌やウイルスによる感染リスクや、角膜に物理的な損傷を与える可能性がよく知られています。しかし、機械的な刺激そのものが目の炎症を直接引き起こす可能性や、その具体的な仕組みについては、これまで明らかにされていませんでした。

研究成果の概要

昭和大学の研究チームは、ヒトの結膜上皮細胞とラットを用いた実験で、以下の点を明らかにしました。

  1. Piezo1が炎症の引き金に: 結膜上皮細胞に存在する「Piezo1」という機械感受性イオンチャネルが、機械的刺激を受けると細胞内のカルシウム濃度が上昇し、その結果、炎症性サイトカイン「IL-6」や「IL-8」が生成されることを発見しました。
  2. p38 MAPK-CREB経路の役割: Piezo1が活性化されると、細胞内でp38 MAPK(タンパク質キナーゼ)とCREB(転写因子)が連鎖的に活性化され、IL-6の生成が促進されることが確認されました。
  3. 機械的刺激の模倣実験: 結膜上皮細胞を物理的に引き伸ばす実験を行ったところ、Piezo1による炎症性反応が誘導されることが再現されました。
  4. ラットの結膜での確認: ラットの眼にPiezo1の活性化剤を投与した結果、炎症性サイトカインの増加と好中球の浸潤が観察されました。

研究成果の意義

この研究によって、目をこする行為やコンタクトレンズの装着といった機械的刺激が、結膜上皮細胞を通じて急性の炎症を引き起こしうることと、その仕組みが科学的に明らかになりました。この発見は、以下のような幅広い意義を持っています。

  1. 眼の炎症性疾患の予防と治療: 角膜疾患やドライアイなどの治療法開発につながる可能性があります。
  2. 目の健康を守る啓発活動の強化: 「目をこすらないように」といったアドバイスが、単なる衛生的な観点だけでなく、科学的根拠に基づいて重要であることを示しています。
  3. 新たな創薬のターゲットとしてのPiezo1: Piezo1を標的とした治療薬の開発が進むことで、眼炎症の進行を抑える新しい治療法が期待されます。

用語解説

  • 結膜上皮: 目の表面(白目とまぶたの内側)を覆い、異物や病原体から目を守る重要なバリアです。また、涙液中の成分を分泌する細胞もあり、眼の表面の乾燥を防ぐ役割も果たしています。
  • Piezo1(ピエゾ1: 細胞が圧力や引っ張りといった「機械的な刺激」を感知するためのメカノセンサー(機械感受性イオンチャネル)です。2010年に発見され、2021年にはこの研究に貢献したアーデム・パタプティアン博士がノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
  • IL-6(インターロイキン6: 炎症性サイトカインと呼ばれるタンパク質の一種で、体内で炎症が起きたときに免疫細胞や組織から放出されます。
  • p38 MAPKp38マップキナーゼ): 細胞がストレスや炎症刺激に応答する際に活性化される重要なシグナル伝達分子です。
  • CREB(クレブ:cAMP応答エレメント結合タンパク質): 細胞の核内で働く転写因子で、遺伝子の発現を調節する役割を持っています。

この研究成果は、目の健康を守るための新たな視点を提供し、今後の治療法開発に大きな影響を与えることが期待されます。

 

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