ファエオヒファミコーシス」の稀な症例
外見上は悪性黒色腫(メラノーマ)に見える黒い結膜病変が、実は真菌感染だったという興味深い症例が報告されました。
患者は50代の女性。過去に翼状片(白目から黒目へ進入する結膜の盛り上がり)の切除手術を受けた経緯があり、その部位に軽い痛みを覚えました。4か月後、その部位に黒い色素沈着を伴う結膜病変が出現し、徐々に大きくなったため、眼科を再診しました(図A)。
眼科的には、メラノーマ(悪性黒色腫)の可能性が否定できない外観を呈しており、結膜病変の外科的切除が行われました。その病理組織を調べたところ、切除部位には接着剤と羊膜移植片の残存物があり、それに隣接する炎症と結膜のびらんが見られました。さらに、分岐する菌糸構造(septate hyphae)を有する真菌の存在が確認されました(図B・D)。この所見は、「ファエオヒファミコーシス(phaeohyphomycosis)」という色素産生性真菌の感染を示すものです。
ファエオヒファミコーシスとは、メラニン様の黒色色素を産生する真菌による稀な感染症で、免疫抑制状態や眼手術後に発症することがあります。今回の症例では、翼状片手術後の移植片や接着剤が局所環境に影響し、感染の温床となった可能性が指摘されます。
術後は抗真菌薬ボリコナゾール(Voriconazole)の点眼治療が行われ、40日後には炎症も治まり、良好な治癒が確認されました(図C)。
この症例は、悪性腫瘍に見える眼表面病変が、実は真菌感染であったという稀ながら重要な教訓を含んでいます。見た目だけでは判断が難しく、病理診断の重要性が改めて浮き彫りになりました。
図の説明:
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図A:黒い色素病変を伴う結膜。メラノーマ様の外観。
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図B/D:病理標本で確認された分岐した真菌菌糸。色素を含んだ構造。
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図C:術後40日の状態。抗真菌点眼で良好な経過。
出典:Law CW, Constad WH, Francis JH. Phaeohyphomycosis, a Pigment-Producing Fungus, Mimicked Melanoma on External Examinations. Ophthalmology. 2025 Aug;132(8):e152.
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