眼圧が低くても安心できない?開放隅角緑内障の片眼進行に潜む意外な要因とは
【本文】
開放隅角緑内障(POAG)では、眼圧をしっかりコントロールしているにもかかわらず、片眼だけ視野進行が止まらないというケースが見られます。特にハンフリー視野検査のVFI(Visual Field Index)で、片眼のみが1年のうちに有意な低下(例:年率-1%以上)を示した場合には、いくつかの眼圧以外の要因を検討する必要があります。
【1. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)】
この疾患は、夜間の無呼吸エピソードによって一過性の低酸素状態や血圧変動を引き起こします。これにより視神経の灌流障害が起こり、正常眼圧でも視野進行を招くことがあります。
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特徴的なのは、眼圧が常に12mmHg以下にもかかわらず、片眼の視野進行が進む場合です。
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睡眠中に「いびきが大きい」「日中に眠気が強い」といった症状があれば、SASの疑いが強まります。
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対策としては、**CPAP治療(持続陽圧呼吸療法)**が進行抑制に有効とされます。
【2. 夜間の眼圧上昇(眼圧の日内変動)】
眼圧は深夜から明け方にかけて上昇しやすいことが知られています。昼間の随時眼圧では問題がなくても、夜間には20mmHg以上に達している可能性があります。
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特に仰臥位(仰向け)になると眼静脈圧が上昇し、眼圧も上がりやすくなります。
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対策には、24時間眼圧モニタリング(例:コンタクトレンズ型センサー)や、夜間投与型の緑内障点眼薬の導入が検討されます。
【3. 視神経乳頭の解剖学的な左右差】
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傾斜乳頭(tilted disc)や小視神経乳頭の存在は、同じ眼圧でも片眼だけ虚血に弱い視神経構造を持つことを意味します。
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OCTで神経線維層や視神経乳頭の構造を左右で比較することが診断の一助になります。
【4. 血行力学的要因(低血圧、レイノー現象など)】
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夜間の過剰な血圧低下(Nocturnal Hypotension)は、視神経乳頭への灌流圧を低下させ、進行を促します。
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特に降圧剤内服中の方は注意が必要です。医師と相談し、夜間の降圧剤を調整することもあります。
【5. 局所的視神経病変や網膜疾患の合併】
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まれに視神経炎の既往や、黄斑疾患(ERM、CSCなど)がVFIの低下を誤って進行と評価させることもあります。
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この場合には、OCTやFA(蛍光眼底造影)での精査が必要です。
【英文文献・根拠】
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Nguyen AM, et al. “Glaucomatous progression in normal-tension glaucoma: a review.” Curr Opin Ophthalmol. 2012;23(2):89–95.
→ 正常眼圧緑内障での進行例において、睡眠時低酸素や血圧低下が重要因子であることを示す総説。 -
Choi J, et al. “Twenty-four hour ocular and systemic hemodynamics in normal-tension glaucoma.” Invest Ophthalmol Vis Sci. 2007;48(2):837–842.
→ NTG患者の24時間眼圧と血行動態が視野進行と関係していることを示す。 -
Bussel II, et al. “Sleep disorders and glaucoma: a systematic review.” Curr Opin Ophthalmol. 2019;30(2):154–162.
→ 睡眠時無呼吸と緑内障の関連を総合的に検討したレビュー。
【まとめ】
視野が片眼だけ進行する場合でも、「眼圧が低いから大丈夫」とは限りません。睡眠の質、眼圧の夜間変動、そして視神経の解剖や全身状態まで含めて、多角的に評価する必要があります。早期の対応で、大切な視機能を守ることができます。
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