盲視:第一次視覚野損傷下での視覚意識を伴わない急速眼球運動調節機構という教育目的での総説が神経眼科41巻1号(2024)に掲載されました。その論文を見て居ましたら、図4にサルで脳血流を測ったPET 画像が出ておりました。脳血流測定には酸素15ラベルの水の反復静注法が用いられます。その方法で私たちは眼球運動の大脳皮質での支配を検討したことがありました(1)。また、ヒヒを用いた痴呆の実験も嘗てフランスで手伝いました(2)。霊長類動物の障害モデルのプロトコールは倫理委員会で承認してもらうのが最近では相当に難しくなったと聞いていました。その画像があまりに懐かしかったのでその原著の文献4のはじめ部分を訳出してみました。
盲視は、後頭葉障害で視覚を失った状態でも、上丘を介した視覚路を使って、自覚的な視野が存在しない視野内にある標的に向かう眼球運動が誘発されるという現象です。網膜内の光感受性を持つ(視細胞ではない)特殊な神経節細胞から出た神経線維は、外側膝状体から(視覚領皮質を経ず)上級に向かい、そこから眼球運動と瞳孔の縮瞳を扱う領域へと投射するという、非常に特殊な経路を持っています。
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後頭頂皮質は盲視マカクザルのサッカードの視覚運動処理に寄与する
加藤里佳子 1,2、林拓也 3,4、尾上佳代 3,4、吉田正敏 1,5,10、塚田秀夫 6、尾上寛隆 4,7、伊佐正 1,2,5,7,8✉ & 池田拓郎 1,9✉
一次視覚野(V1)に損傷を負った患者は、視覚意識を失いますが、「盲視」と呼ばれる視覚運動課題を実行する能力は保持しています。 この残留視覚運動機能の根底にある神経機構を理解するために、我々は、片側の V1 損傷を有する非ヒト霊長類の失明モデルを、さまざまな眼球運動課題を用いて研究しました。 陽電子放射断層撮影法(PET)による脳機能イメージングでは、V1病変後、同側および対側後頭頂皮質の頭頂内溝領域におけるサッカード関連の視覚運動活動に有意な変化が見られた。 頭頂内溝の側堤(lbIPS)における単一ユニット記録は、両半球の対側視野内の標的に対する視覚反応を示した。 無傷の動物での以前の報告とは異なり、同側または対側病変の lbIPS にムシモールを注射すると、V1 病変の影響を受けた視野内の標的へのサッカードが著しく損なわれました。 これらの結果は、両側の lbIPS が盲視時の視覚運動機能に寄与していることを示しています。
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- Suzuki Y, Kiyosawa M, Mochizuki M, Ishiwata K, Ishii K. The pre-supplementary and primary motor areas generate rhythm for voluntary eye opening and closing movements. Tohoku J Exp Med. 2010 Oct;222(2):97-104. doi: 10.1620/tjem.222.97.
- Kiyosawa M, Pappata S, Duverger D, et al. Cortical Hypometabolism and its Recovery following Nucleus Basalis Lesions in Baboons: A PET Study. Journal of Cerebral Blood Flow & Metabolism. 1987;7(6):812-817. doi:10.1038/jcbfm.1987.139
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