睡眠時無呼吸症候群の概要
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome, SAS)は、睡眠中に呼吸が止まる、もしくは極端に弱くなる状態が繰り返される病気です。この状態は、呼吸関連の睡眠障害(Sleep Disordered Breathing, SDB)に分類され、主に閉塞性睡眠時無呼吸(Obstructive Sleep Apnea, OSA)と中枢性睡眠時無呼吸(Central Sleep Apnea, CSA)に分かれます。
1. 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)
OSAは睡眠時無呼吸の約90%を占め、睡眠中に気道が物理的に閉塞することで呼吸が停止します。この病態は、無呼吸中に体が呼吸をしようとする「呼吸努力」が見られることが特徴です。OSAは日中の強い眠気、いびき、窒息感といった症状を引き起こすだけでなく、放置すると高血圧、糖尿病、心不全などの生活習慣病のリスクを高め、健康状態の悪化につながる可能性があります。
2. 中枢性睡眠時無呼吸(CSA)
CSAはOSAに比べて頻度は低いものの、心不全や脳卒中後の患者で発生することが多い病態です。CSAは、脳からの呼吸指令が適切に伝わらず、無呼吸中に呼吸努力が見られない点がOSAとの鑑別ポイントとなります。
3. 疫学
OSAは非常に一般的な疾患で、特に肥満や加齢、男性に多く見られます。東アジア人においては、顔の骨格(小顎症や下顎後退など)の影響でOSAのリスクが高いことが知られています。成人男性の約20%、閉経後の女性の約10%が中等症以上のOSAを患っていると推定されています。また、OSAと高血圧、糖尿病、肥満といった生活習慣病との関連性も強く、これらの疾患を併発するとOSAのリスクがさらに増加します。
4. 検査・診断
OSAの診断には、ポリソムノグラフィ(PSG)という精密検査が一般的に使用されます。PSGは、脳波や呼吸パターン、酸素飽和度などを測定し、睡眠中の無呼吸や低呼吸の発生回数を確認します。簡易モニター検査もありますが、これは主にOSAが強く疑われる患者に適用されます。
5. 治療
OSAの治療の第一選択は、持続陽圧呼吸療法(Continuous Positive Airway Pressure, CPAP)です。これは、睡眠中に気道を強制的に開放するための装置で、重症度に応じて保険が適用されます。中等症以上のOSA患者にはまずCPAPが推奨されますが、軽症の場合やCPAPが使用できない場合には、口腔内装具(マウスピース)が有効です。また、体重減少や側臥位(横向きで寝る姿勢)も症状軽減に役立つことがあります。
重症のCSAや心不全を伴う患者には、CPAPに加えてアダプティブ・サーボ・ベンチレーション(ASV)などの治療が適用されることもあります。さらに、最近ではCPAPが困難な患者向けに、舌下神経電気刺激装置の植込術が保険適用で利用可能になっています。
6. 専門医の紹介
睡眠障害は非常に多様で、OSAだけでなく他の睡眠関連病態が疑われる場合や、OSAの治療を行っても日中の眠気や不調が続く場合は、専門医に相談することが推奨されます。特に、酸素飽和度のモニタリングで長時間の低酸素血症が認められる場合には、基礎疾患として慢性閉塞性肺疾患(COPD)や神経筋疾患の可能性もあるため、注意が必要です。
睡眠時無呼吸症候群は適切な治療を受けることで、症状の改善と生活の質向上が期待できる病気です。もし疑わしい症状がある場合は、専門医の診察を受けることをお勧めします。
参考文献:陳和夫、睡眠時無呼吸症候群:in 呼吸器疾患ペディア、日本医師会雑誌153特別号2、2024,s247-249
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