先天性のocular motor aprexiaについて素人向きに説明してください。
清澤のコメント:この疾患であれば急速眼球運動と緩徐な眼球運動の速度をEOG(眼球運動を見る眼電図)で測定すれば、MRIで異常が無い事と合わせてその診断は確定できるだろうと思われます。残念ですが現在治療法はなく、本人が怪我をしないように気を付けて暮らしていただくという事になるでしょう。以下に、**先天性眼球運動失行(congenital ocular motor apraxia, COMA)**について、患者さんやそのご家族などの素人向けに分かりやすく説明した文章をご用意しました。専門的な記述をそのあとに載せておきます。。
先天性眼球運動失行(せんてんせい がんきゅう うんどう しっこう)とは?
「先天性眼球運動失行(congenital ocular motor apraxia)」は、生まれつき眼の動きに少し特徴のある状態です。特に、「左右を見る」ような**素早い眼球の動き(水平性のサッケード)(注1)**がうまくできないという特徴があります。
どんな症状がみられるの?
この状態のお子さんは、たとえば誰かに呼ばれて横を向こうとするとき、まず頭を動かしてから、目で見るという動作をします。普通の人は目だけでチラッと横を見ることができますが、この病気の子どもはそれが苦手で、首を一緒に動かして視線を移します。
また、急に物を追いかけるのが難しいため、**「見逃す」「目で追えない」「視線が合いにくい」**といった印象を持たれることもあります。
視力には問題があるの?
目そのものの見え方(視力)や眼の構造には問題がないことがほとんどです。ですが、視線を素早く動かす機能が弱いために、視覚的な注意力や集中に影響が出ることがあります。
原因はなに?
はっきりした原因がわからないこともありますが、**脳の運動をつかさどる部位(とくに眼球運動を制御する小脳や脳幹)**の軽度の発達異常が関連していると考えられています。遺伝的な背景が関与することもあります。
また、この症状だけでみられる「孤立型」の場合と、他の神経疾患の一部として現れる場合があり、脳のMRIなどの検査で慎重に診断されます。
治療はあるの?
現時点では、特効薬や手術などの治療はありません。しかし、多くの場合、本人は時間とともに慣れ、生活に大きな支障が出ないようになります。また、視線の使い方や姿勢の工夫などを通じて、リハビリや支援を受けながら学校生活などに適応していくことが可能です。
保護者の方へ
最初は「見えていないのでは?」と心配になるかもしれませんが、視力自体には問題がないことが多いです。ただし、他の発達面(言語や運動)のチェックも大切なので、小児神経科や発達外来などで一度詳しく診てもらうと安心です。
注1:眼球運動失行症が、急速眼球運動の生涯であることを述べました。急速眼球運動と追従眼球運動の速さは不連続です。人間の眼球運動にはいくつかの種類がありますが、**急速眼球運動(サッケード)と追従眼球運動(滑動性追跡)**の速度は以下の通りです:
🔹急速眼球運動(Saccadic eye movement)
-
速度:最大で 約400~700度/秒(°/s)
-
特徴:
-
非常に速く、瞬間的に視線を目標に移動させる運動
-
通常の読書時や周囲を見渡すときなどに使われます
-
動作中は「サッケーディック・サプレッション」と呼ばれる視覚の抑制が起こり、視界は一時的にぼやけます
-
🔹追従眼球運動(Smooth pursuit eye movement)
-
速度:最大で 約30~100度/秒(°/s)
-
特徴:
-
動いている物体をなめらかに追いかけるための眼球運動
-
視標の速度が速すぎると追従できなくなり、補償的にサッケードが入ります(キャッチアップ・サッケード)
-
簡単にまとめると:
種類 | 最大速度(度/秒) | 主な用途 |
---|---|---|
急速眼球運動(サッケード) | 約400〜700°/s | 素早い視点移動 |
追従眼球運動(スムースパスート) | 約30〜100°/s | 動体視追従 |
◎ 以下に専門的な記述を抜粋採録します:私が著者の一人である神経眼科臨床のために(医学書院)4版から抜粋:
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眼球運動失行症 ocular motor apraxia
(ⅰ)先天性:congenital ocular motor apraxia (COMA)
■臨床的特徴■
- 視線の方向を変える時,過剰に首を振る。(head thrust)
■症状,所見■
- 随意に水平のsaccade ができないので,視線を変える時,首の運動を利用する。ハトが歩く時に首を運動させてsaccade を補うことと同様のメカニズムである。
- 患者は新しい目標に向かって,急に首を振る(図6-27)。
- 前庭眼反射で視線は元の位置に残るが,限度を越えると眼球は頭の方向へ従う。
- 頭に連れて動いた視線の位置が,新しい目標に達した時,ゆっくり首を戻して視線の方
向に合わせる。
- 患者は視線を変えるたびにこの首振り運動をする。また前庭眼反射を弱めるために瞬目をする。
- 症例によっては,pursuit は保存されている。
■本態■
- 前頭葉から橋への伝導路の先天性障害。
- 前頭眼野で起こった指令が,PPRF へ伝達されないので,自発的なsaccade が障害される。
■対策■
- 症状は固定。特に治療は行わないが,網膜色素変性など他の異常を伴うことがあるので注意。
■文献■
1) Kondo A, Saito Y, et al. Congenital ocular motor apraxia:Clinical and neuroradiological findings, and long-term intellectual prognosis. Brain Dev, 2007;29:431-438. PMID:17336010
(ⅱ)後天性:acquired ocular motor apraxia
- 水平,垂直ともに侵される。
- 両側性前頭葉梗塞,前頭頭頂葉梗塞で生じる。前頭眼野frontal eye field:FEF から,
頭頂葉へ向かう線維が障害されて生じると考えられている。
- 後頭葉障害で起こるものにBálint 症候群がある。
- Gaucher 病,Niemann-Pick 病,毛細血管拡張性小脳失調症,脊髄小脳変性症などでみられることがある。
- saccade もpursuit も含め,自発性眼球運動が消失する。先天性のものと異なり,saccadeが多少保たれるケースもある。
- 前庭眼反射は保たれる。
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