神経眼科

[No.3928] 精神病性障害と遺伝的リスク ― 新しい研究から見えてきたこと

精神病性障害と遺伝的リスク ― 新しい研究から見えてきたこと

清澤のコメント;「JAMA精神科」の目次から一般にも興味を持てそうな論文を選び、その背景と抄録を素人にわかる用語で説明してみました。精神病は「統合失調症」と「双極性障害」という二つの疾患に帰納できる訳ではない模様です。

背景

精神病という病気は長い間、「統合失調症」と「双極性障害」という2つの大きな病気に注目が集まってきました。しかし実際には、それ以外にもいくつかの精神病性障害が存在しています。たとえば「妄想性障害」「急性精神病」「他に特定されていない精神病」「統合失調感情障害」などです。

  • 妄想性障害は、幻覚や人格の低下を伴わず、筋の通った妄想だけが目立つ病気です。

  • 急性精神病は、短い期間で強い症状が出ますが、比較的経過が良いのが特徴です。

  • 統合失調感情障害は、統合失調症のような症状と気分の病気が同時に出てくる病気です。

  • 他に特定されていない精神病は、どの病気ともはっきり診断できない精神病をまとめたものです。

これらの病気は以前から「統合失調症や双極性障害の一部なのか、それとも全く別の病気なのか」が議論されてきました。しかし、患者数が少ないために十分な研究ができず、はっきりとした結論は出ていませんでした。今回スウェーデンの大規模なデータを用いた研究が発表され、これらの病気と統合失調症や双極性障害との遺伝的なつながりが詳しく調べられました。


素人向けに纏め直した論文の要約

研究は1950年から2000年にスウェーデンで生まれた人を対象に、2018年までの診断記録を追跡しました。対象は数十万人規模にのぼり、統合失調症、双極性障害、大うつ病、妄想性障害、急性精神病、統合失調感情障害、そして他に特定されていない精神病にかかった人たちが含まれました

研究者たちは「家族にどんな病気が多いか」をもとに、それぞれの病気の遺伝的リスクを計算しました。

主な結果

  • 妄想性障害急性精神病他に特定されていない精神病は、統合失調症の遺伝的リスクは低めで、むしろ双極性障害や大うつ病と同じくらいの遺伝的要素を持っていました。

  • 統合失調感情障害は特別で、統合失調症の遺伝的リスクと双極性障害の遺伝的リスクの両方が高く、両者の中間に位置するような遺伝的特徴を示しました。

  • つまり、これらの病気は単に「統合失調症の一部」や「双極性障害の一部」と言えるものではなく、それぞれに独自の遺伝的背景を持っていることが示されました。


意味すること

今回の研究は、精神病性障害の理解を深める大きな一歩です。妄想性障害、急性精神病、統合失調感情障害、他に特定されていない精神病については、今後さらに遺伝学の研究が進めば、診断や治療の方法に新しい道が開けるかもしれません。

患者さんやご家族にとっては、「自分の病気は統合失調症や双極性障害の“枝分かれ”ではなく、独自の病気である可能性がある」と理解できる点で大きな意味を持ちます。


原典情報

論文タイトル: Genetic Risk Profiles of Psychotic Disorders

著者: Kenneth S. Kendler, MD; Henrik Ohlsson, PhD; Jan Sundquist, MD, PhD; et al.

掲載誌: JAMA Psychiatry. 2025;82(9):926-933.

公開日: 2025年7月9日

DOI: 10.1001/jamapsychiatry.2025.1289

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