一般麻酔で「意識」はいつ消えるのか― 脳波が示す新たな“意識消失のマーカー” ―
清澤のコメント:私は眼科医ですが、以前から脳や神経活動に興味を持ってネット上の情報にアンテナを張っています。今日のニュースは同級生の星進悦さんが教えてくれた記事をまとめたものです。
背景
全身麻酔は、手術を安全かつ苦痛なく行うために不可欠ですが、「患者がいつ意識を失ったのか」を正確に判断することは、実は簡単ではありません。現在も麻酔の深さは、血圧や心拍数、体動などの間接的な指標に頼る部分が多く、過度に深い麻酔や、逆に浅すぎる麻酔による合併症のリスクが残っています。
そのため、意識の有無を客観的に示す“脳の生物学的マーカー(バイオマーカー)を見つけることは、長年の重要な研究課題でした。
目的
本研究の目的は、一般麻酔薬が効き始め、意識が失われる瞬間に、脳内でどのような電気的変化が起こるのかを明らかにすることです。特に、脳のどの領域同士の「つながり(結合性)」が崩れるのかを定量的に捉え、意識消失の客観的指標になり得るかを検証しました。
方法
研究チームは、全身麻酔薬として広く使われているプロポフォールを投与される予定の手術患者31人を対象としました。
被験者の頭皮に128個の電極を装着し、脳波(EEG)を高密度で記録しました。さらに新しい数学的解析手法を用いて、脳全体の信号から、頭頂葉皮質、後頭葉皮質、視床など9つの重要な脳領域に由来する活動を推定し、それぞれの領域間の結合性を解析しました。
結果
麻酔前の覚醒状態では、頭頂葉皮質と視床の間でアルファ波(8~12Hz)が強く同期しており、これらの領域が密接に情報交換していることが確認されました。また、頭頂葉と後頭葉の結合性も高い状態でした。
しかし、プロポフォール投与により被験者が意識を失うと、頭頂葉皮質と視床の間のアルファ波同期が急激に崩れ、同時に頭頂葉と後頭葉の結合性も乱れました。
これは、意識が保たれている脳では重要だった「脳領域間の協調した電気活動」が、意識消失とともに解体されることを示しています。
結論
この研究は、意識消失が「脳のどこかが止まる」のではなく、「脳のつながりが断たれる現象」であることを明確に示しました。特に、頭頂葉皮質と視床の結合性の崩壊は、意識喪失の有力な生物学的マーカーになり得ます。
将来的にこの知見が臨床応用されれば、麻酔の深さをより正確に制御し、「深すぎず、浅すぎない」安全な麻酔管理につながる可能性があります。ただし、今回の研究は単一の麻酔薬に限られており、解析手法にも限界があるため、さらなる検証が必要です。
出典
Cell Reports Medicine Yuan T-F, et al.
「General anesthesia disrupts parietal–thalamic and parietal–occipital connectivity associated with loss of consciousness」
(Nature系ニュースによる解説記事を基に要約)



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