神経眼科

[No.4552] 線維筋痛症(せんいきんつうしょう、fibromyalgia)という病名を説明します。

線維筋痛症(せんいきんつうしょう、fibromyalgia)という病名を耳にしたことがある方も多いと思います。これは体のあちこちに慢性的な痛みが続く病気と説明されますが、実際には原因がはっきりしない点が多く、診断の考え方も時代によって変化してきました。医療者の中でも、その診断や病態について慎重な見方があるのも事実です。ここでは一般の方にも理解できるように、現在の医学での考え方を整理してみます。

まず線維筋痛症の特徴的な症状は、全身の慢性的な痛みです。筋肉、関節、腱などに痛みやこわばりがあり、肩、首、背中、腰など体の広い範囲に広がります。多くの場合、数か月以上続く持続的な痛みとして感じられます。また痛みだけでなく、**強い疲労感、睡眠の質の低下、頭痛、しびれ、集中力低下(いわゆる“ブレインフォグ”)**などを伴うことがあります。患者さんによっては、軽く触れただけでも痛みを感じる「痛覚過敏」が見られることもあります。女性に多く、30〜60歳代で診断されることが多いとされています。

この病気の難しい点は、血液検査や画像検査で明確な異常が見つからないことです。筋肉や関節の炎症、神経の損傷などがはっきり確認できるわけではありません。そのため現在では、体そのものの異常というよりも、脳や脊髄での痛みの処理(痛覚伝達)が過敏になっている状態と説明されることが多くなっています。つまり「痛みの感じ方の調節機構」が変化しているという考え方です。ストレス、睡眠障害、感染症、外傷などがきっかけとなる場合もあるとされています。

診断は、主として症状の評価によって行われます。かつては体の特定の18か所の「圧痛点」を押して痛みを確認する方法が用いられていました。しかし現在は、より実際の症状を反映させるために、**全身の痛みの分布(WPI:widespread pain index)と、疲労や睡眠障害などの症状の程度を評価する症状重症度スコア(SSスコア)**を組み合わせる診断基準が用いられます。もちろん、関節リウマチ、膠原病、甲状腺疾患、神経疾患など、他の病気が隠れていないかを除外する検査も重要です。

治療は一つの特効薬があるわけではなく、複数の方法を組み合わせて症状を軽減することが基本になります。薬物療法としては、痛みの神経伝達に作用する薬が用いられます。具体的には、プレガバリン、デュロキセチン、ミルナシプランなどが代表的です。また、睡眠障害がある場合には睡眠改善薬を使うこともあります。

しかし、薬だけで改善するとは限らないため、生活改善やリハビリテーションが重要とされています。軽い有酸素運動、ストレッチ、温熱療法などは症状の軽減に役立つことがあります。また、慢性的な痛みによる不安や抑うつを軽減するために、認知行動療法などの心理的サポートが行われる場合もあります。

ただし、線維筋痛症という診断には慎重な姿勢も必要です。検査で明確な異常がないため、他の病気が見逃されていないかを十分に確認することが大切です。また慢性的な痛みには、身体的要因だけでなく心理的・社会的要因が複雑に関与することも知られています。その意味で、この病名は「一つの病気」というより、慢性疼痛の一つの症候群として理解する方が現実に近いという考え方もあります。

まとめると、線維筋痛症は全身の慢性的な痛みと疲労を特徴とする病態で、血液検査などで明確な異常が出ないため診断が難しい病気です。現在は、脳の痛み処理の過敏化が関係していると考えられ、薬物療法と生活改善を組み合わせた治療が行われています。医療者としては、この病名だけにとらわれず、患者さんの症状の背景にあるさまざまな要因を丁寧に評価する姿勢が重要といえるでしょう。

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