全身病と眼

[No.3345] 糖尿病治療の進歩と最新の治療薬の使い方 山田悟先生記事から

清澤のコメント:糖尿病治療の進歩と最新の治療薬の進歩~DPP-4阻害薬、GL-1/GIP作動薬などの使い方~という北里大学北里研究所病院副院長・糖尿病センター長の書いた記事が東京保険医新聞(2025.2.25)に掲載されています。興味深い記事でしたので分かり易さを旨として抄出してみます。

1. はじめに

この15年間で糖尿病治療は大きく進歩しました。20世紀には、まずSU剤(スルホニル尿素薬)を使い、それでも血糖コントロールが難しければインスリンを導入するというシンプルな治療方針が一般的でした。しかし、現在ではさまざまな治療薬が登場し、患者の状態に合わせた選択が可能になっています。本記事では、欧米と日本の糖尿病治療の方針の変遷と、現在の主流である「インクレチン関連薬」の使い方について解説します。

2. 欧米と日本の糖尿病治療の違い

2-1. 欧米の治療アルゴリズム

米国糖尿病学会(ADA)と欧州糖尿病学会(EASD)は、2006年に治療方針をまとめた「治療アルゴリズム」を発表し、その後も3~4年ごとに改訂しています。初期の治療方針では、

  • まず生活習慣の改善とメトホルミン(血糖を下げる薬)を使用

  • 目標のHbA1c(血糖の指標)が達成できなければ、第二選択肢として「基礎インスリン」「SU薬」「チアゾリジン薬」のいずれかを追加

といったシンプルな構成でした。しかし、2018年には大きな変化があり、第二選択肢の中心が「SGLT2阻害薬」と「GLP-1受容体作動薬」にシフトしました。さらに2022年には、

  • 「臓器保護」が目的ならSGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬を第一選択に

  • 「血糖や体重の管理」が目的ならメトホルミンやGIP/GLP-1受容体作動薬を使用

といった方針に変わり、メトホルミンが唯一の第一選択ではなくなりました。

2-2. 日本の治療アルゴリズム

日本では、2022年に初めて治療アルゴリズムが作成され、2023年に改訂されました。大きな特徴は、

  • 肥満の有無で治療薬を選ぶこと

    • 肥満がある場合:ビグアナイド薬(メトホルミン)、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬が中心

    • 肥満がない場合:DPP-4阻害薬、メトホルミン、α-グルコシダーゼ阻害薬が選択肢に

欧米と異なり、日本では非肥満の2型糖尿病が多いため、この点が治療方針に反映されています。特に、DPP-4阻害薬は日本でよく使われており、現場の処方実態に即した記載がなされています。

3. インクレチン関連薬の使い方

3-1. DPP-4阻害薬

DPP-4阻害薬は血糖管理能力が高く、副作用のリスクが低いため、日本では広く使われています。心血管疾患の予防効果は証明されていませんが、安全性が高く、HbA1cを下げる効果が期待できます。ただし、稀に水泡性類天疱瘡や間質性肺炎が報告されているため注意が必要です。

3-2. GLP-1受容体作動薬

GLP-1受容体作動薬は、血糖コントロールだけでなく、心血管病や腎臓病のリスクを下げる効果があることが臨床試験で示されています。主に注射薬ですが、唯一の経口薬も存在します。ただし、服薬時には「空腹時に50~120mlの水で飲む」「服用後30分以上は飲食を避ける」といった条件があり、服薬管理がやや難しい点が課題です。

4. まとめ

糖尿病治療は、この15年で大きく進歩し、患者ごとに適した治療が選べるようになりました。現在は、従来のSU薬やインスリンだけでなく、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬といった新しい薬が主流となっています。特に、日本ではDPP-4阻害薬が多く使われています。糖尿病治療の目的が単に血糖を下げることから「臓器保護」や「合併症予防」に変わりつつあるため、今後も新しい治療薬の開発とその適切な使い方が求められるでしょう。

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