COIVD-19流行前後での視神経炎の臨床像の比較
望月 嘉人, 増田 明子, 平竹 純一朗, 五味 文;兵庫医科大学眼科学講座
清澤のコメント:4月号の日眼会誌に収載された論文です。COIVD-19感染に関連してMOG抗体陽性の視神経炎が出ている症例報告は既になされていたが、その全体での傾向が示された意味でこの論文は画期的な報告と言えるでしょう。その成因が今後論じられることでしょう。(末尾追記注参照)
COVID-19流行前後での視神経炎の臨床像の変化:一般向けの解説
この研究では、COVID-19の流行前後で視神経炎(視力が急に低下する病気)の患者数や症状にどのような変化があったのかを調査しました。研究対象は2016年から2023年までに視神経炎と診断された71人の患者です。
研究結果のポイント
- COVID-19流行後(2020年3月以降)、視神経炎の患者数が約1.7倍に増加しました。
- 特に「抗MOG抗体陽性視神経炎」と呼ばれるタイプの患者が5.3倍に増えました。
- 一般的な治療法や治療の効果は流行前後で大きく変わりませんでしたが、「抗AQP4抗体陽性視神経炎」の場合は、流行後の患者の視力が治療前の段階から比較的良好でした。
- 免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)という治療法を受ける患者が流行後に増加しました。
- 再発率(病気が再び発症する割合)は、COVID-19流行後に高くなり、特に男性で再発が多くみられました。
研究の結論 COVID-19の流行によって視神経炎の患者が増え、特定のタイプの視神経炎が特に多くなったことが分かりました。この増加は、感染やワクチン接種による免疫システムへの影響が関係している可能性があります。今後さらに詳細な研究が必要とされ、より効果的な治療法を探ることが期待されています。
この研究は、視神経炎の発症リスクや治療方法の変化を理解するための重要なステップとなるでしょう。
清澤の追記:
COVID-19が視神経炎を引き起こすメカニズムについて、優しくまとめます。
■ COVID-19が視神経炎を引き起こす可能性のある理由
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、主に呼吸器に影響を及ぼすことで知られていますが、実は目や神経にも間接的・直接的に悪影響を及ぼすことがあることが分かってきました。
【1】ウイルスが神経に入り込む仕組み
このウイルスは「ACE2受容体」という体の細胞表面にある鍵穴のような部分に結合して体内に侵入します。このACE2受容体は肺だけでなく、脳や目の周囲の神経細胞にも存在しているため、ウイルスが神経の中に入り込んでしまうことがあります。
【2】ウイルスによる炎症反応(サイトカインストーム)
感染すると、体がウイルスと戦うために「サイトカイン」という炎症物質を大量に出すことがあります。これを「サイトカインストーム」といいます。この現象は血液と脳を隔てる「血液脳関門」を壊すことがあり、その結果として、ウイルスや抗体が神経組織に入りやすくなり、炎症が起こるのです。
【3】自己免疫の誤作動による神経の障害
感染後、体の免疫がウイルスではなく、自分の神経を誤って攻撃してしまう「自己免疫反応」が起こることがあります。特に、視神経の表面を覆っている「ミエリン」と呼ばれる保護膜が攻撃されると、「視神経炎」という状態になります。視神経炎では、片目または両目の視力が急に低下したり、痛みを伴ったりします。
■ MOG抗体関連視神経炎(MOG-AD)とCOVID-19の関係
視神経炎の中には、MOG抗体という自己抗体が原因となるタイプ(MOG抗体関連疾患)もあります。
COVID-19による炎症や免疫の異常により、MOG抗体が作られ、それが視神経を攻撃することで視神経炎が起こると考えられています。
■ まとめ
COVID-19がきっかけとなって視神経炎を起こす理由は大きく3つです:
-
ウイルスが直接神経に入り込む
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強い炎症反応による間接的な神経の障害
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自己免疫の誤作動による神経の脱髄(ミエリン障害)
視神経炎は、視力低下や視野の異常を引き起こすことがあります。COVID-19後にこのような症状が出た場合には、早めの眼科・神経内科の受診が大切です。
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