脳科学からかゆみを考える:記事紹介 清澤のコメント:日本医師会雑誌2021・11号に痒み-どう診断し、どう治療するかという特集で「脳科学からかゆみを考える・望月秀紀、柿木隆介」という記事が掲載されています。痒みに関する脳内ネットワークには従来から知られていた脊髄視床路の他に、かゆみ特異的な脳部位の頭頂葉内側部(後部帯状回や楔前部)がある。掻破による快感では線条体、島皮質、運動関連領野の活動が亢進する。これら部位はモチベーションに関係しており、その活動にはμオピオイドが関連する。ややむつかしそうな議論ですが、本文の要点をまとめました。(https://jiyugaoka-kiyosawa-eyeclinic.com/shinkei/zenshinbyoutome/2397/)
0⃣ はじめに:掻きむしりたくなる不快な感覚。メカニズム解明が強く望まれる。痒みの脳内メカニズムを述べる。
1⃣ 痒みに関する脳内ネットワーク:主な経路は脊髄視床路。特に後島皮質はかゆみを含めた皮膚感覚の神経シグナルを視床から最も多く受け取り、重要。ヒトMRI研究で後部島皮質が痒みの知覚に関係する代表的部位とネットワークを形成する。特に線条体、前部島皮質や帯状回の一部は掻きたいという欲求やかゆみに伴う不快感に関連する。此処にはドーパミン受容体が多い。唯一かゆみ特異的な脳部位は頭頂葉内側部(後部帯状回や楔前部)。頭頂葉内側部はかゆみにシグナルを直接受け取っている可能性がある。
これまでは、脊髄視症路から視床、後部島皮質を基軸とした脳内ネットワークを中心に研究された。最近の動物実験では、脊髄結合腕傍核路で脳へ伝達される。そのシグナルは扁桃核に到達する。偏桃体が、記憶の形成に関係する側頭葉内側部や、負の情動に関係する脳部位とネットワークを形成する。痒みの精神面への影響は、偏桃体を基軸としたネットワークが主要役割を果たしているかもしれない。
2⃣掻破による快感とそれに伴う過剰掻把:掻破による快感は線条体、島皮質、運動関連領野の活動が亢進。これらはモチベーションに関係する。μオピオイドが関連か?μオピオイド受容体拮抗薬(ナルトレキソン)で掻破の快感が抑制される。慢性痒み患者では痒みの有無に関係なく皮膚を掻くと強い快感を感ずる。慢性痒み患者では掻破中毒になっているという説もある。
3⃣脳を標的にした痒みの治療:抗ヒスタミン薬は病気が原因の痒みにはあまり効果がない。ヒスタミン以外の物質がある。脳は共通のネットワークを使って、「痒み」感覚を作り出す。それを調整するニューロモデュレーションが開発されている。TMS (trans cranial magnetic stimulation)やtDCS(transcranial direct current stimulation)といった非侵襲脳刺激装置。最近では脳深部の神経活動を直接操作する方法もある。小さなカプセルに薬を入れて磁石で誘導して脳内に送る。また超音波刺激も可能。このほかに、ニューロフィードバックトレーニング(患者がMRIから自分の標的脳部位の活動を見て自分を訓練する。)
◎おわりに:今後、様々な方法が実用化されるかもしれない。
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