末梢神経障害の診断と治療 ― JAMAポッドキャストから学ぶ最新知見
末梢神経障害(ニューロパチー)は、世界の成人の約1%にみられる一般的な病気で、手足の神経が損傷してしびれ、痛み、歩行の不安定などを引き起こします。今回のJAMA Clinical Review ポッドキャストでは、米国メイヨークリニックのミシェル・マウアーマン医師が、末梢神経障害の病態、原因、診断、治療について分かりやすく解説しており、その内容を一般向けに紹介します。
末梢神経障害とは、脳と脊髄から離れた神経が傷つく状態で、軸索そのものや髄鞘、神経を支える細胞のどこかに障害が起こります。症状は足の指先から現れることが多く、「長さ依存性」と呼ばれます。多くの患者さんが、足の裏の違和感やピリピリ感、灼熱痛、夜間に強くなる痛みなどを訴えます。バランスが取りにくく、特に暗い場所やシャワー中など視覚情報が少ない場面でふらつくこともあります。
原因としてもっとも重要なのは糖尿病で、長期間の高血糖が神経を徐々に傷めます。前糖尿病でも小さな神経線維が障害され、痛みを中心とする神経障害が現れることがあります。このほか、ビタミンB12不足、アルコールの飲み過ぎ、抗がん剤などの薬剤、遺伝性の神経疾患、単クローン性ガンモパシーと呼ばれる血液異常など、多くの因子が関係します。診察では、腱反射、振動覚、足先の位置感覚、痛覚・温度感覚を丁寧に確認し、複数の異常が組み合わさることで診断が強まります。また、神経伝導検査や筋電図は、腰椎の神経圧迫など似た症状の別疾患との鑑別に役立ち、軸索型か髄鞘型かといった病態の違いも判別できます。
原因検索には、空腹時血糖、HbA1c、経口糖負荷試験などの糖代謝評価が不可欠で、ビタミンB12とメチルマロン酸の検査、血清タンパク電気泳動による単クローン性ガンモパシーの検出も推奨されます。治療は原因の是正と症状を抑える対策に大きく分かれます。軽い症状では、就寝前に足を冷やし、リドカインやカプサイシンの外用などを併用する保存的治療を試します。改善が乏しい場合には、ガバペンチンやプレガバリン、アミトリプチリン、デュロキセチンなどを少量から開始し、数週間かけて丁寧に増量することが大切です。副作用の出方や生活リズム、併存疾患に合わせて薬を選ぶことが推奨され、たとえば夜間の痛みには眠気を利用できる薬、気分の落ち込みがある患者さんにはSNRIが適します。
薬だけに頼らないケアも極めて重要です。ふらつきがある患者さんには理学療法による歩行訓練や筋力強化が役立ち、場合によっては杖や歩行器、足首の装具を用いて転倒を防ぐことが推奨されます。足の感覚が鈍ると、靴の中の異物や小さな傷に気づかず潰瘍となる危険があるため、毎晩の足の観察や適切な靴・靴下の着用、皮膚の保湿なども欠かせません。末梢神経はゆっくりと再生する力を持っていますが、すでに高度の障害があれば完全な回復は難しいため、「痛みを半減させて生活の質を改善する」ことが現実的な目標とされています。
出典:JAMA Clinical Review Podcast “The Diagnosis and Treatment of Peripheral Neuropathy”(2025年11月17日公開)
著者:Michelle L. Mauermann, MD(Mayo Clinic)、Mary M. McDermott, MD(JAMA)
清澤院長の一言コメント:糖尿病患者さんに多い末梢神経障害は眼科でも無関係ではありません。網膜症の管理と合わせて、足のしびれやふらつきを尋ねることで転倒や足潰瘍の予防につながり、全身の健康維持に寄与する重要な視点だと感じます。



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