未破裂脳動静脈奇形(AVM)の出血リスクは本当に高いのか
最新国際研究(MARSコンソーシアム)から見えた“正しいリスク評価”
出典:JAMA Neurology Author Interviews Podcast(JAMA Network)
脳の「動脈」と「静脈」が本来あるはずの毛細血管を介さずに直接つながってしまう先天性の血管異常を**脳動静脈奇形(AVM)**と呼びます。若年者でも見つかることがあり、破裂すると脳出血を起こし、重い後遺症を残すこともあるため、患者さんにとっては非常に不安の大きい疾患です。
今回、JAMA Neurology のポッドキャストでは、米国 UCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)のヘレン・キム教授が、未破裂AVMの出血リスクを国際的な大規模データで解析した最新研究を紹介しました。これは MARS(Multicenter AVM Research Study)コンソーシアムによるもので、世界9施設、3,030名という非常に大規模な未破裂AVM患者を前向きに追跡した研究です。
■ 未破裂AVMの出血リスクは「これまでの半分」だった
従来、未破裂AVMの年間出血リスクは 2〜4%/年 と説明されることが一般的でした。
しかし今回のMARS研究では、より正確な推定が可能となり、その結果、
未破裂AVMの年間出血リスクは約1.3%/年
と、従来の約半分であることが明らかになりました。
3,000名以上を同じ基準で追跡した研究はこれまで存在せず、今回の結果は非常に信頼度が高いと考えられています。
これは、患者さんにとって「過度な不安を持つ必要がないケースも多い」という重要なメッセージとなります。
■ それでも注意すべき “危険なサイン” は何か
ただし、全ての患者が同じリスクではありません。今回の研究で破裂リスクを高める要因が明確になりました。
出血リスクを上げる主な要因
-
高齢(特に60歳以上)
出血リスクは約2倍に上昇。 -
小脳や脳深部に位置するAVM
いわゆる“深部AVM”は破裂率が高い。 -
AVMに伴う動脈瘤の存在
求心性・ニダス内動脈瘤のどちらもリスクを上げる。
これらの特徴を持つ患者では、慎重なフォローと場合によっては治療介入が必要になります。
■ 治療方針は「患者の価値観」と「個別リスク」で決める時代へ
未破裂AVMを治療するかどうかは非常に難しい問題です。
2014年の ARUBA 試験では、未破裂AVMに対する積極的治療(外科、塞栓術、ガンマナイフなど)が、短期的には医療管理(様子観察)よりも出血リスクが高いという結果が示され、治療選択はさらに慎重になっています。
今回のMARS研究の意義は、
「患者が治療を選ぶために必要な“本当のリスク”をより正確に提示できるようになった」
点にあります。
特に、
● リスク因子がない
● 若年である
● 血管構造が複雑で手術リスクが高い
といった場合には、治療を急がないという選択も現実的です。
逆に、
● 高齢
● 深部AVM
● 動脈瘤併存
などの“危険群”では、今後予測モデルを用いた詳細なリスク評価が期待されています。
■ 今後に向けて
キム教授は、今回の結果を基盤として「個々の患者ごとに出血リスクを数値化するツール」を作ることを目標としていると述べています。
これが実現すれば、眼科で見つかる神経症状や頭痛などの患者でも、脳神経外科との連携の中でより適切な判断がしやすくなるでしょう。
同論文に関連したこのブログの関連記事:未破裂脳動静脈奇形の出血リスク ― 新たな国際研究から見えた自然経過の実像;論文紹介 | 自由が丘 清澤眼科
出典
JAMA Neurology Author Interviews Podcast
“Risk of Hemorrhage and Risk Factors in Unruptured Brain AVMs”
Helen Kim, MD / Cynthia Armand, MD
JAMA Network



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