日本で進むアルツハイマー病診断の新しい流れ
――血液バイオマーカー検査が医療をどう変えるのか
アルツハイマー病の診断は、これまでPET検査や脳脊髄液検査など、費用と負担が大きい方法に依存してきました。しかし近年、血液中の特定タンパク質(血液バイオマーカー:BBM)を測定するだけで病態を推定できる技術が進歩しています。日本ではレカネマブ治療の開始に伴い、迅速でアクセスしやすい診断体制の整備が求められています。
今回紹介する研究「日本における血液バイオマーカーテストの選択肢を含むアルツハイマー病診断フローのシミュレーション」は、こうした課題に対し、4つの診断ワークフローを想定して動的シミュレーションを行い、それぞれの効率を比較したものです。PMC
本研究の目的は、(1)現在の診断体制の課題を可視化し、(2)BBM検査をどの段階で導入すれば負担軽減につながるか、(3)治療適応となる患者数がどう変化するかを明らかにすることでした。
比較された4つのシナリオは、
1)現行の診断ワークフロー
2)BBMをトリアージ(ふるい分け)として利用
3)BBMで確定診断まで行う
4)トリアージと確定診断の両方にBBMを導入するケース
です。PMC
最大の課題となっているのは、現在のワークフローにおける「待機時間」です。シミュレーションでは、診断確定までの平均待機が最大6.4か月に及ぶと推定されました。BBM検査を導入すると、この待機時間はいずれのシナリオでも大幅に短縮され、BBMを確定診断として用いる場合には、PETや脳脊髄液検査を大幅に置き換えることで治療適応患者数が大幅に増加しました。PMC
また、オンライン調査で検査の「支払い意欲(WTP)」や「早期診断の価値」など無形コストも評価され、BBM検査の利便性が検査需要を押し上げる可能性が示唆されました。BBM導入は、待機時間の短縮、診断アクセスの改善、治療につながる患者数の増加という点で、日本のアルツハイマー医療を前進させる技術といえます。PMC
【出典】
Igarashi A, Kimura N, Ataka T, et al. Simulation of Alzheimer’s diagnostic flows with blood biomarker test options in Japan. Alzheimer’s & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions. 2025 Oct 7;11(4):e70157. doi:10.1002/trc2.70157. PMID:41070364; PMCID:PMC12504044. Milliman Japan
【清澤コメント】
かつて私はPETを用いた糖代謝分布を基盤とするアルツハイマー病診断の研究に携わった経験があります。PETや脳脊髄液検査は高い精度を持つ一方で、費用・侵襲性・アクセス面で多くの患者さんに負担をかけてきました。今回の論文が示すように、血液バイオマーカー検査を診断フローに組み込むことで、待機時間を短縮し、より多くの患者さんが治療につながる可能性が現実味を帯びています。 眼科領域でも認知症との関連性が注目されており、網膜イメージング等を組み合わせた診断技術の発展により、将来的にはより包括的な早期診断が可能になるかもしれません。本研究は、そのような医療体制改革の一端を示す重要な一歩と考えています。原著論文は国際誌 Alzheimer’s & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions に掲載されており、英文題名・DOI・PMID/PMCIDを参考として追記しました。Milliman Japan



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