全身病と眼

[No.4382] 多発性血管炎性肉芽腫症 granulomatosis with polyangiitis(GPA)の眼症状とは

日本眼科医会報130巻1号に、「網膜動脈閉塞と前部虚血性視神経症を合併した多発性血管炎性肉芽腫症の一例」(安田慎吾ほか)が掲載されていました。

網膜動脈閉塞と前部虚血性視神経症という、いずれも急激で不可逆的な視機能障害を来しうる病態が同時に発症している点は、眼科医にとって非常に示唆に富む症例報告です。

granulomatosis with polyangiitis(GPA)は、ANCA関連血管炎の一つで、細小血管を主座とする壊死性血管炎と肉芽腫形成を特徴とする全身性疾患です。上気道、肺、腎障害が有名ですが、眼症状は決して稀ではなく、むしろ初発症状となることもあります。眼科医にとって重要なのは、「眼症状のタイプから全身疾患を疑えるか」という視点です。

炎症性眼窩疾患、強膜炎、結膜炎、鼻涙管閉塞、ぶどう膜炎、網膜血管炎、網膜血管閉塞、視神経炎など多岐にわたる眼症状を呈します。

まず強膜炎です。GPAでは単なる上強膜炎よりも、深部に及ぶ強膜炎が問題になります。特徴は、充血の強さに比して疼痛が強く、眼球運動時痛や夜間痛を伴う点です。感染性強膜炎や関節リウマチ関連強膜炎との鑑別が重要ですが、鼻症状や全身倦怠感、炎症反応高値、ANCA陽性といった背景があれば、GPAを積極的に考えるべきです。局所治療のみでは改善せず、全身治療が必要になります。

次に前部虚血性視神経症(AION)です。GPAでは血管炎による後毛様体動脈循環障害により、動脈炎性AIONを呈することがあります。高齢者に多い非動脈炎性AIONとの鑑別が重要で、発症年齢に比して全身症状が目立つ場合、CRP高値、貧血、炎症所見を伴う場合は要注意です。側頭動脈炎だけでなく、GPAによるAIONも鑑別に挙げる必要があります。視神経乳頭浮腫が比較的高度で、視力低下が急激かつ重篤なことが多いのが特徴です。

さらに網膜動脈閉塞です。GPAでは血管炎により網膜動脈が閉塞し、中心網膜動脈閉塞あるいは分枝閉塞を来すことがあります。心原性塞栓や動脈硬化性病変が想定しにくい症例で、炎症反応高値を伴う場合は、血管炎性閉塞を疑う視点が不可欠です。AIONと同時に発症することがある点は、本症例報告が示すとおりで、血管炎が多発性・同時性に生じる疾患であることを強く意識させられます。

これら三つの病態に共通するキーワードは、「虚血」と「炎症」です。眼局所の所見だけで診断を完結させようとせず、全身症状、血液検査、画像、内科との連携を前提に考える姿勢が求められます。眼科医がGPAを疑うこと自体が、患者の予後を左右すると言っても過言ではありません。

清澤のコメント

GPAは、従来Wegener(ウェゲナー)肉芽腫症と呼ばれていた疾患です。名称変更の背景には歴史的経緯がありますが、臨床的に重要なのは「眼症状が極めて多彩で、かつ重篤になりうる全身性血管炎」である点です。強膜炎、AION、網膜動脈閉塞をそれぞれ単独疾患として処理してしまうと、診断は遅れます。眼症状を“全身疾患の表情”として読む視点を、ぜひ身につけたいと思います。セット採血での好中球細胞質抗体(ANCA)陽性が気づく決め手となるでしょう。

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