清澤のコメント:神経内科では、下記の様に神経内科が関連する疾患の全体を俯瞰して、今後の研究や治療が進んでゆく方向をまとめた答申が作られました。この動きは、以前に東京医科歯科大学神経内科教授を務められた水沢英洋先生が発起されたということで、私も誇らしく思いました。新しく治療ができるようになった神経疾患については、私も神経眼科医としてよく理解して適切な診断や治療ができる施設に遅滞なく紹介できるように心がけたいと思いました。以下の表は10の主要項目名と、神経眼科やPETなど私の眼に留まった項目を太字にしました。他意はありません。
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要旨:日本神経学会では,脳神経内科領域の研究・教育・診療,特に研究の方向性や学会としてのあるべき姿について審議し,水澤代表理事が中心となり国などに対して提言を行うために作成委員*が選ばれ,2013 年に「脳神経疾患克服に向けた研究推進の提言」が作成された.2014 年に将来構想委員会が設立され,これらの事業が継続.今回将来構想委員会で,2020 年から 2021 年の最新の提言が作成された.この各論 II では,疾患ごとに脳神経内科領域を分類し,各分野の専門家がわかりやすく解説するとともに,最近のトピックスについて冒頭に取り上げた.
具体的には:https://www.jstage.jst.go.jp/article/clinicalneurol/advpub/0/advpub_cn-001696/_pdf/-char/ja をご参照ください。
(1)脳血管障害のトピックス:
● 脳梗塞急性期の血栓回収療法の適応時間が 24 時間まで延長された.
● 発症時刻不明の脳梗塞症例に対して,脳画像診断を駆使することによりアルテプラーゼを投与することが可能となった.
● 脳梗塞急性期から亜急性期にかけての細胞治療療法の開発がすすんでいる.
● 脳卒中再発予防に厳格な血圧管理が有用であることが証明された.
(2)神経系腫瘍のトピックス
● 神経膠腫を中心とした悪性脳腫瘍に対する多角的な治療法の開発が進みつつある.
● 光感受性物質を用いた日本発の光線力学的療法や,交流電場腫瘍治療システムが開発されている.
● NovoTTF などの新規医療機器も保険収載された.
● その他の腫瘍では多くの分子標的治療薬の開発が進められている.
(3)神経外傷,スポーツ神経学のトピックス
● 急 性 / 慢性外傷性脳症 ( acute/chronic traumatic encephalopathy,以下 ATE/CTE と略記)の研究が進んでいる.
● 今後,それらの病態を明らかにするために PET などを用いた長期的な調査が必要である.
(4)認知症,高次脳機能障害のトピックス
● バイオマーカーを 用 いたアルツハイマー 病(Alzheimer’s disease,以下 AD と略記)の生物学的診断基準が提唱された.
● AD の一部の疾患修飾薬で部分的に有望な結果が出てきている.
● トライアル・レディ・コホートの構築が進んでいる.
● 今後,認知症疾患の臨床研究体制の整備が不可欠である.
(5)発作性神経疾患(てんかん,頭痛)のトピックス
● 素因性てんかんではイオンチャネル以外の遺伝子変異が明らかになった.
● 三者間シナプスやネットワーク病態のてんかん原性への関与が明らかになった.
● 抗てんかん原性薬や医工連携による診断技術・デバイス治療の開発が望まれる.
● てんかん診療拠点病院の全国展開による大規模臨床研究体制の構築と包括的診療体制の整備が必要である.
● 国際頭痛分類第 3 版が公開され,日本語版も出版された.
● 抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin generelated peptide,以下 CGRP と略記)抗体,抗 CGRP受容体抗体による片頭痛治療が成果をあげ,我が国でも承認された.
(6)神経変性疾患のトピックス
● 遺伝性神経筋疾患への核酸医薬・遺伝子治療薬が承認された.
● エクソームシークエンスの実装により,多くの遺伝性疾患の診断が可能となった.
● タウの PET リガンドが開発された.
● 変性疾患の原因タンパク質について,その構造,物理特性が解明された.
● 変性疾患において,プリオン仮説の実証が進んだ.
● 今後,超早期診断と予後予測を見据えた,レジストリー整備と研究が必要である.
● 今後,核酸個別化治療を見据えた制度整備が必要である.
(7)神経感染症のトピックス
● マルチプレックス PCR による神経感染症の臨床診断の実用化が進められている.
● 自己免疫性に関わる種々の神経細胞表面抗原が明らかになり,診断のための網羅的解析も進められている.
● 神経感染症と自己免疫性脳炎の網羅的解析による早期診断法の開発と診療アルゴリズムの構築が必要である.
(8)全身性の免疫性疾患に伴う神経障害のトピックス
● モノクローナル抗体などのバイオ医薬品が治療に利用可能となった.
● 大型血管炎の診断に FDG-PET が保険適用となった.
● 研究拠点整備と,他学会との連携を推進する環境を整える必要がある.
(9)免疫介在性神経疾患のトピックス
● 免疫学的な病態(自己抗体など)に基づく診断学が実践されるようになった.
● 長期予後を見据えた病態修飾もできるようになった.
● 特定のリンパ球や補体・サイトカインなどを標的とした分子標的薬剤の開発が進められている.
● 治療リスクを最小化する方法論の確立や,我が国における疾患レジストリの充実とリバース・トランスレーショナルリサーチの促進が必要である.
本文で:中枢神経系疾患においては,加えて MRI や PET などの構造ないし機能に関する画像データを対比させていくことが重要である.と記載
(10)末梢神経疾患,筋疾患のトピックス
● 遺伝性 ATTR アミロイドーシス(家族性アミロイドポリニューロパチー)に対する国内初の siRNA 治療薬が承認された.
● 慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy ,以下CIDPと略記)の免疫グロブリンの皮下注投与製剤が承認され,在宅治療が可能となった.
● CIDP の一部の病型,GBS における生物学的製剤の開発が進んでいる.
● 炎症性末梢神経疾患の治療開発が今後盛んになることが予想される.開発を促進するため,オールジャパン体制の症例レジストリ等の整備が必要である.
● 本邦で見いだされた疾患である眼咽頭遠位型ミオパチー(oculopharyngodistal myopathy,以下 OPDM と略記)の原因が,3 塩基リピート伸長変異であることが明らかとなった.本研究では,同一モチーフのリピート伸長変異が臨床像の類似した疾患を引き起こすという新規の概念を明らかとし,また既存の疾患概念を大きく変えることとなった.
● 今後,さらに神経筋疾患におけるリピート伸長変異の同定が進むと考えられ,ロングリードシーケンスを含めた研究体制の整備が必要である.
● デュシェンヌ型筋ジストロフィーがビルトラルセンで治療できるようになった.
● さらに筋ジストロフィーに対するウイルスベクターやゲノム編集薬を用いた遺伝子治療の開発が進んでいる.
● ビルトラルセン製造販売後の安全性・有効性評価に加えて,新しい遺伝子治療開発のための治験実施体制整備が必要である.
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