強度近視のある緑内障患者での視神経線維層と神経節細胞層の経時的な変化を調べた研究
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清澤のコメント:ハードコンタクトレンズ装用者の多い私の診療所では「緑内障と強度近視の合併」は日々の診療でも特によく出会う病態です。この論文では、強度近視を伴う緑内障の目では、視神経の「側頭部(耳側)」にある神経線維が、通常の緑内障よりも早く薄くなると結論していて、私の診察に基づく印象ともよく合致しています。ですから強度近視のある緑内障患者のOCT所見を分析したこの研究は強度近視眼の緑内障治療を進めるうえで参考になるところの多い研究と言えます。
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この研究は、強い近視(強度近視)のある人の目において、視神経の変化がどのように進行するかを時間をかけて調べたものです。
研究を行ったJiangらは、「視神経の周囲の神経線維層(pRNFL)」と、「黄斑部(視力の中心)にある神経細胞の層(mGC-IPL)」が、強度近視のある人でどのように薄くなっていくかを詳しく観察しました。
この研究では、次の3つのグループの目を比べました:
- 強度近視のみの目(109眼)
- 通常の緑内障の目(64眼)
- 強度近視を伴う緑内障の目(70眼)
その結果、強度近視を伴う緑内障の目では、視神経の「耳側」にある神経線維が、通常の緑内障よりも早く薄くなることがわかりました。
一方で、黄斑部にある神経細胞の層(mGC-IPL)の薄くなる速度には、大きな差は見られませんでした。
しかし、強度近視の緑内障の目では、視神経線維の下側と耳側が特に大きく薄くなりやすく、また、「鼻寄りの下側(下鼻側)」の神経節細胞層もより薄くなっていました。
研究者たちは、強度近視に緑内障を合併している人では、視神経周辺の神経線維が特に耳側で早く傷んでいくことが、早期発見の手がかりになる可能性があると述べています。
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抄録を基に再度詳述し直します:
高度近視の方に注意してほしい緑内障の新しい知見
—神経の薄くなる場所に違いが—
出典:Ophthalmology, Volume 132, Issue 6, June 2025, pp. 644–653
高度近視(強い近視)のある目では、緑内障を発症していなくても、網膜の神経が少しずつ薄くなっていくことがあるとされています。このたび中国の研究チームは、「緑内障がある目」と「緑内障がない高度近視の目」とで、どの部分の神経がどのくらい早く薄くなるかを比べました。その結果、高度近視の緑内障では特に“こめかみ側”の神経が早く薄くなることがわかりました。
◆ 研究の概要
この研究は、中国・中山大学の眼科チームが行った「3年間にわたる縦断的な観察研究」です。対象となったのは243人の患者さんの243眼。
内訳は以下の3つのグループに分けられました。
- HM(高度近視のみ):109眼
- OAG(一般的な開放隅角緑内障):64眼
- HMG(高度近視かつ緑内障):70眼
研究チームは、OCTという精密な検査機器を使って、網膜の神経の厚みを年に一度測定し、変化を記録しました。
◆ 調べた場所は2か所
網膜の中でも以下の2つの層の厚さの変化を重点的に観察しました。
- 網膜神経線維層(pRNFL):視神経が目から脳へ情報を送るケーブルのような部分
- 黄斑部神経節細胞–内網状層(mGC-IPL):視細胞からの信号を処理する“視覚の中枢”のような部分
◆ 主な結果
- 網膜神経線維層(pRNFL)の平均的な薄くなる速さ
→ 高度近視緑内障(HMG)の患者さんでは 1年で約1.17μm 薄くなっており、これは一般的な緑内障(OAG)や単なる近視(HM)よりも 有意に速い ことが確認されました。 - 特にこめかみ側(耳側)のpRNFLが大きく薄くなっていた
→ HMGでは OAGの2.7倍の速さ(1年あたり1.24μm)で進行(P = 0.002) - 黄斑部(mGC-IPL)の神経の薄くなる速さは、3グループ間でそれほど大きな差はありませんでした。
- HMGでは、**下側(特に下鼻側)**の神経がより早く薄くなる傾向がみられました。
◆ まとめと臨床への示唆
この研究から、高度近視で緑内障を発症した目では、神経の薄くなり方に特徴的なパターンがあることが明らかになりました。特に「こめかみ側(側頭側)」の神経が目立って薄くなることは、高度近視眼における緑内障の早期発見の重要な手がかりとなる可能性があります。
今後、視野検査だけでなく、OCTによる神経線維の厚さの部位別の変化を観察することで、より早く緑内障を見つけることができるようになるかもしれません。
出典:
Jingwen Jiang ら, “Assessing Longitudinal Changes of Retinal Nerve Fiber Layer and Ganglion Cell-Inner Plexiform Layer in Highly Myopic Glaucoma”, Ophthalmology, Volume 132, Issue 6, June 2025, pp. 644–653.
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